第22話 魔王パワー

「エセ中国語っぽい言葉を使うのはなぜ?」

「スペースの節約です。今後もずっと消えなかったら質問したい時に困るじゃないですか」


 回数制限ならぬ、スペース制限。ありそうだ。

 幸いにも、というべきか少し時間を置くと、書いた文字は消えるようだ。


「あら、回答が早いですね。まだ使用者が少ないのですかね」


 そして文字が消えるのは問い合わせの確認も兼ねていたらしい。


 サイレンのように赤色灯がぐるぐる回ってアピールするステイタスボードの一角。

 紫水のステイタス、『技能』カテゴリの下に、新たなカテゴリ『A』が出現した。俺のボードには無いカテゴリだ。


「アンサーのAでいいのか、これ」

「たぶん……そう、みたいですね」


 カテゴリ内部の項目はきちんと質問内容への回答であった。


 赤色灯でバチバチにアピールしてきたのだからそうでなきゃ問屋がおろさんわな。

 文章はコピーアンドペーストちっくなものであったが、実利が発生するのであれば問題なし。


 結論から言うと、MPとは魔王パワーの略称である。それだけ判明した。


「なんだよ魔王パワーって」


 これから俺たちは真面目な顔して「魔王パワーが足りない!」とかやらなきゃならんのか?


「能力や補正はこの謎のシステムが担当するみたいですけど、その謎シスを運用する動力源が魔王パワーだということのようです」

「ほおー。じゃあ、その魔王パワーはなんなんだよ」

「魔王の持っているパワーですね」

「なんなんだよ……」


 この説明で分かるやついるのか?

 謎の固有名詞を並べたら面白そうとか考えているなら大間違いなんだぞ。


 紫水が言った。


「恐らくは魔王役の方が秘めている生命力とか魔力のような、エネルギーとして捉えられる何かを指しているのでしょう」

「なんでそんなのお前分かるんだ?」

「サブカルでは定番ですから」

「言われてみりゃそうだが、果たして当てはめていいものか」

「あくまでも仮定、推測ですよ。話も進みませんし。センパイが他に対案あるなら挙げてくださって構いませんよ?」

「魔王パワーで結構です」


 対案などあるわけがなかった。

 ミステリアスパワーだろーが、マインドポイントだろーが、大して変わりはしまい。というより、呼び方を変えるくらいしか対案が思い浮かばないのでなんの役にも立たん。


「つーか、詳細を尋ねたのに分かったのは名称だけなのか……」

「他の情報は企業機密らしいので」

「どこの企業様なんだよ」


 住所も連絡先もこの地球に存在してないだろ。企業概要までコンフィデンシャルな企業があってたまるか。 


 かくして俺たちは魔王パワーの追及を諦めたのであった。推測に推測を重ねた答えを出したところで単なる自己満足にしかならなそうだし……。


「問い合わせも週に一回しかできないようですから使い辛いですね」

「どんだけカスタマー対応したくないんだよ」

「否応なく増えていくユーザーの中には山ほどモンスターがいそうだからじゃないですか」

「そいつらを指一本で粉砕できる本物がごろごろやってきてるんだが」

「私たちも指二本で羽虫を潰せますけど、わんさか集られるとうっとおしいですよね?」

「お前、なんであっち側の視点で話すワケ?」


 俺はただ愚痴をこぼしただけで、討論に発展させるつもりは皆無なんだ。


 アトレはもはや腹を出して眠ってしまっているし、有意義な会議とはならなそうだ。すでに雑談の場と化しているのは否めない。


「まァ、なんにせよ、消費するものがあるなら、それが回復するもんなのか確認しないとな。謎アイテム使わないと回復しません、ってんならそう簡単に使えねえし」

「時間経過で回復するみたいですよ。さっき減った分のゲージが戻ってますし」

「はえぇなオイ」


 こういうのってもっと回復に時間とか手数がかかるもんなんじゃないのか。

 自然回復だとしても睡眠が必要とか、一時間でいくらみたいな。

 こんな数分くっちゃべってただけで全快するのか。


 いや消費量が小さすぎるって可能性は無きにしもあらずだが、時間操作とかの消費はかなりヤバそうなイメージだった。

 一応シール貼らなきゃダメとかの制限があるから多少は安くなってるということなのだろうか。


「センパイ、色々と考察するのはいいですけど。先にすることがありますよ」


 真面目に考えていた俺に、いつもの無表情な真顔で後輩が言った。


「あ? なんだよ?」

「私たち、晴れて無職かつ仲間になったわけですし、慰労&懇親会をしましょう!」

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怠惰なる銀の女王、その横にいる『コスプレイヤー』が俺。 近衛彼方 @kanata0101

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