第20話 後輩に勝てなさそうな件について

「親御さんはいいのか?」

「ちょっと行くには遠いんですよね。親には大して思い入れもないので、後々、困窮しているところを見つけたら引き入れるくらいでいいですよ。いい大人ですから頑張ってください、と」

「ドライだな、お前……」

「センパイこそ、ご家族のことはいいんですか?」

「ウチは親父と兄貴の権力が強いからな。俺が帰ったら逆に迷惑なんだよ」


 田舎特有の、と言っていいのかは知らないが、長男贔屓がすごいのが我が家である。


 俺が見下されていたとか、虐待されていたとかそういうことはないが、明らかな優先度の違いは常日頃から感じていた。


 そんな長男が家業を継いで常駐している実家に帰りたいかと問われれば、時間を作るのに溜め息が出る程度の帰りたさだと答える。


 積極的に敵対するつもりはないが、味方に引き入れるのもためらう相手だった。

 さしあたり、この問題については後回しにする。考えたくもない。


「なんにせよ、お前の『技能』を確認するのが先だな」

「あ、それなら確認済です」

「は?」


 いつの間に?


 紫水はどこからか現れたステッカーを指先に取って言った。


「私の能力は『タイムシール』。このシールを貼った対象の時間を延長するそうです」


 そのステッカーを俺の手に乗せると、時計の絵柄がぴったり肌に貼り付いた。盤面の数字が12ではなく48まで刻まれている。


「急に変なステッカーを貼るなよ……剥がれるんだよ、な……、……?」


 紫水に尋ねる台詞が途中で止まる。


 なぜならめちゃくちゃ違和感のある動きを紫水がしているから。

 あれに似ている。ハイスピードカメラで撮った時の動画に出てくる人のような動作速度だ。


「お、おい……?」


 顔の前で手を振ってみても、どこかワンテンポ反応が遅い。

 不安を覚えはじめた頃に、ひらりとステッカーが剥がれて消えた。


「――とまあ、そんな感じです。我ながら時間操作とは、最強の一角に名乗りを挙げてしまいましたね」

「全然分からん、なんだよ今のは?」


 タイムと名が付くからにはそりゃ時間関係の技能なのだろうが。


 時間と空間を操作する能力が強いというのはバトル作品における定説であることは否定しない。

 だが実際に体感すると、一体何が起きているのか全く理解できなかった。分からん殺しの極み。


 紫水はどことなく興奮した様子で答える。なお表情はびた一文変動なし。


「今のはセンパイの時間を延長したんです。時間はこの世界において万人に定量であるべきところ、センパイだけ十秒が二十秒に変動したわけですよ」

「つまり?」

「このシールを貼ると、同じ時間で二倍行動できます」


 親の俺より子供の方がハイスペック技能な件について。


 改めてステッカー、いや『タイムシール』を虚空から作りだした紫水はそこらへんの家具に貼り付けた。子供みたいなことはやめてくれ。


「一枚目がある間、二枚目を作ることはできないみたいです。無機物に貼っても発動するんですね」

「そういう実験だったのか」

「色々試してみませんと詳らかにはなりませんもの」

「つーか、ぽいぽいタイムシールを作ってるけど、それってどういう仕組みなんだ? 変なもん消費とかしてんじゃないのか」


 無から有を創り出す系統の能力は有用なほど、取り返しのつかない要素を失っているイメージが強い。

 そうでなくとも時間操作ぐらい強い能力だと操作した分の寿命を失ってたりとかしそうだ。


 紫水はステイタスを確認しながら、役目を終えたシールが消えるのと同時にタイムシールを作成する。


「MPという謎のポイントを消費して作成している模様です。なんですか、これ」

「俺も知らん、どこを見て確認してるんだそれ」

「えぇ……」


 後輩よりも把握していなくて悪かったよ。布と糸をいじったり、大人の運動をしていたら時間がなくなったんだよ。


「自己カテゴリにありますよ。簡易一覧表のページで、おそらく主要なものが揃って表示されているので、そこで増減を確認しました」

「こんな便利なページがあったのか!」

「一番分かりやすいところにあるページじゃないですか」


 ステイタスを開いて自分の状態を確認する。何か言ってるが聞こえんな。


 そこらへんのテレビゲームを始めてみたら載っていそうなインターフェイスで、俺の状態が一覧になっているページがあった。こういうのでいいんだよ。細かすぎてワケ分からなかったステイタスがようやく頭の中で纏まってきた。


 表示されているのは大きく三つ。

 曲線だけで表現されたよくある人体図、何らかの数値、何らかを示す横棒グラフ。


 人体図をタッチすると、右手なら右手の、頭なら頭の詳細情報が表示される。ショートカットのようだ。


 数値はいくつか記載されており、分かりやすいのは『ぎのう』か。ランク1、そのまま書かれている。

 この画面だけひらがななのはどういう配慮なんだろうか。


 『つよさ』と『まおう』もある。


 どうやら『つよさ』は肉体的なところを指すらしく、総合的にみた数値のようだ。これもタッチすると詳細情報が出てきたが、あまりにも項目が多すぎて考えるのをやめた。


 ともかく『つよさ』の総合値4が貧弱なことだけは理解した。

 紫水の『つよさ』にトリプルスコアで負けている。歳かな……。

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