第19話 ダンジョンは量産型製造工場

「これで終わりですかね?」

「そうみたいだ」

「光っただけというか……あまり変化が起きた感じはしませんね」

「俺の時もそんなんだったな。この謎システムに紐づくと、状態ステイタスを確認できるようになるみたいなんだが出せるか?」

「ステイタス?」


 問い返した紫水の言葉に反応してか、彼女の目の前に薄光りするボードが浮き上がる。

 反対側からは何も見えないようになっていた。プライバシーへの配慮はバッチリか。紫水からは自身の情報が映し出されているのが分かるだろう。


「おおー……、本当にゲームみたいですね……」

「これもたいした超常現象だよな。『技能』ってカテゴリがないか?」

「ええと、これですかね」


 紫水が彷徨わせた指でボードにそろりとタッチする。まるで初めてスマホを触った人のようだ。


「謎システムの力でなんか能力が付与されるらしい。それの詳細が『技能』に記載されていくから要確認だ」

「ああ……ダンジョンもそれで攻略を進めることになるんですね」

「は?」


 唐突に言われた内容に反応しきれなかった俺は首を傾げた。

 どうしていきなりダンジョンに話が飛んだんだ。


「センパイみたいな関係者と『契約』しただけで能力とやらを入手できるんですよ。ダンジョンでも魔王か関係者の誰かが、ダンジョンに侵入した生物となんらかの手段で契約なり隷属なりさせてシステムと紐づければ、勝手にシステムが能力を付与してくれるってことじゃないですか。そこだけ自動化の仕組みを作れば、労力を掛けずに配下を増やせるマクロの完成ですね」

「……そういうことになるのか」


 ダンジョンという単語に惑わされていたが、やっていることは俺たち労働者と同じになるわけか。


「つまり数に任せて襲われたらどうしようもないってことじゃないか?」


 俺たちは今のところ二人、今後増えていくとしても、ネズミ算のごとく増えていきそうなダンジョンマスターの配下に数で勝る要素はなさそうだ。

 ダンジョンに挑むような人なんて運動神経に自信アリな戦闘民族だろうし、運動不足の目立つ俺たちは質でも劣るに違いない。


 我らが魔王は怠惰ゆえの平和主義者であり、俺もその方針に則っている。けれども話を聞く限りではほとんどの魔王が好戦派らしいから、いずれ何らかの争いが発生することは確かであり、そうなった時が絶望的な状況である気がする。


 せんべいをかじりながらごろごろしていた魔王が口を挟んだ。


「有象無象の雑魚を気に掛ける意味はないぞ。数を用意するならどーしても親になる魔王の影響力は薄くなるからの」

「でも、『技能』を付けるのはシステムなんだろ? そのきっかけになった魔王がどう関係してくるんだ?」

「基本的な性能の部分……素体の出来にバラつきが出る。量産型よりもわんおふとやらの方が凝った造りになるのはこちらの世界でも同じじゃろ」


 こいつ、いつの間にかロボット系のアニメでも履修したのか?

 つーか俺たちってワンオフ品だったのか。


「まあ……自動化された工場ダンジョンと考えたら量産型と言えるのかもしれんが……」

「妾たち魔王を親として、等親が落ちるにつれて出力も落ちるからの。加えてどの程度の出力を与えるかは親次第じゃし……他者を従えたがるような人間種は間違いなく自身よりも弱いものを従えるように動く。それらに妾が一親等、二親等のおぬしらがどうこうされる要素はないのう」

「んなこと説明されてもいまいち納得できないんだよな……。力の差を自覚するようなイベントもないし、本当に戦えるのかも分からん技能だし」


 仕立て屋のコスプレをしたら仕立てが上手くなった実感はある。

 だが、それは今までの世界観でも存在していた技術の習得だ。


 例えば魔法を代表とする超常現象を、果たしてコスプレをしただけで使えるようになるのか。

 超絶技巧の人間辞めなきゃ使えなさそうな武術の類を五体満足で行使できるのか。


 できなかったら、単純にコスプレが上手いだけの武力0人間がトップにいる雑魚集団の誕生となる。


「親子関係で説明すると孫以下が面倒くさいですから企業体にしましょう。形態としては会長がアトレさんで、その下に代表取締役社長のセンパイがいて、今後はセンパイの下に組織が広がっていく感じなのですかね。私はセンパイの秘書でお願いします」

「説明がめんどくさくなるほど説明する相手がいるのか?」


 すげぇどうでもいい訂正が後輩から入った。

 少なくとも孫以下まで組織が広がる前提だよな、それ。あとどちらにしても孫請けとかって親等を示す言葉にならんか。


 俺のカスみたいな人脈は紫水で枯れ尽くし、もうどうにも広がる余地がないから好きにしてくれ感はある。紫水が俺よりも有力な人脈を築いていたというのなら素直に脱帽する。


 すると、紫水は俺の視点に無かった意見を供出した。


「都内に妹がいるので。敵対関係にはなりたくありませんし、私が『契約』してこようかと」

「あー、家族か」


 年始にしか帰省しないのですっかり頭から抜け落ちていた。

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