第13話 ダンジョンマスター?

「……なんの話だ?」

「センパイ、ニュースとか見ないんですか?」

「くだらんフェイクばかりのニュース見る時間があるならまともな飯を食いたいからな」


 偏見かもしれないが、俺はあらゆるメディアを信用していない。

 ネットは言わずもがな、テレビやラジオ、新聞もまともな情報ソースとしては信用ならないと思っていた。ジャーナリズムとかいうのは死んだ。


 バラエティ企画を見て楽しむぐらいはする時もあるが、あくまでも娯楽として、だ。テレビはほとんどゲームをするためだけのモニターに使っている。


 だから社会から取り残されてしまうんだろうが……。


 どうやら後輩は俺と違って、社会とのつながりを維持している人間だったらしい。

 ネットメディアの記事を呼び出して、スマホを渡してきた。


「センパイはご存知ないとのことですが、“ダンジョンマスター”が出現したようですよ」

「だ……、ダンジョンマスター?」


 なんだそりゃ。魔王の亜種か?


 表示された画面には配信動画がキャプチャされた画像が大きく映っていた。

 動画のど真ん中に、頭から全身を覆うカーキ色の擦り切れたローブで身体情報を隠匿した男が映っている。サジェストで男だと書いてあるから男なんだろう。


 なんかこう一昔前の死神みたいなセンスだな。吸血鬼ハンターに出現即やられそうな見た目だと思った。


 スマホを持ったまま眺めている俺に後輩は嘆息しながら、逆さまのままスマホを操作して別のページを出す。


「一昨日ぐらいから世界中で超常現象が頻発しているらしくて。日本だと今、一番大きな騒ぎになっているのはそれ……ダンジョンでしょうね」

「ああ……そういや昨日、地元の駅前で祖国愛に狂ったヤツと正義の味方が戦うのを見たわ」

「あの国の人たちなら全世界で狂ってしまったみたいで、なんらか悪質な電波の影響下にあるのでは、なんて陰謀論が実しやかに話されているのを見ましたね」


 掘り下げるとどんどんアンダーグラウンドな与太話になってしまいそうだ。

 もしかしたら、と思わなくもないが、さしあたってはダンジョンマスターとやらの話を聞いておこう。


「そんで、こいつが世の中に発生すると何が良くなるんだ?」

「ダンジョンマスターは文字通り、迷宮の主ですから。なんでも東京にダンジョンを開放するので攻略してほしいとか。いろいろと未知の資源を入手可能だそうで、法整備とかされる前に侵入できるならしておいた方が後々のためになりそうな気がしています」

「そんな緩い感じか、これ?」


 後輩が表示した大元の記事ページ見出しには『ダンジョンからの挑戦状!?』と太字で記載されている。


 先ほどとは別の写真が載っているのだが、都庁の先端二又になった間に知らない塔が追加されていた。いつの間にか都庁が三又になっている。


 ダンジョンマスターの台詞は「この都庁ダンジョンを消したくば、公民を問わず、あらゆる手段を以って攻略にいそしむことだ。敵対者は全力にて排除させてもらうがな」という、こけおどしの三下か本当に最奥で待っているか悩むもの。


 少なくとも後輩の言うようにとりあえずで行くようなものではなさそうだ。


「ミサイルとかで破壊しないのか、これ」

「都庁ごと新宿に更地を作っても構わないのであれば。この塔自体は映像というか蜃気楼というか、実体の無いものらしいので無意味ですけど」


 本当だ、記事に書いてある。


 都庁の一階に突然現れた禍々しい扉だけがダンジョンの外側で触れるものだそう。他のところは、確かに塔があるはずなのに触れられずすり抜けてしまうようだ。

 かと言ってダンジョンの扉も開けっ放しで閉じられない模様。隔離も難しいだろうな。


 扉の奥には黒い渦とかではなく、石造りの階段が続いていた。


「ダンジョン……とかって、俺が想像するようなダンジョンで合ってんのかね」


 ゲームとかでしか見たことないが、人間が攻略をするような造りになってるかどうかは定かでない。

 ダンジョンマスターとやらが人間かどうか、判別可能な要素は何もなかった。人間よりも強い種族向けの場所である可能性は否定できない。


「センパイの想像するダンジョンで合ってるんじゃないですかね。でなければ、こんな動画配信サイトで宣伝なんかしないでしょう」

「宣伝広告を打ちに来たワケじゃないだろ、さすがに」


 あんまりそういうのが表立って暴れだすと、事情があって住みにくい世の中になるからやめてほしい。

 切実な願いと我が家で待っている事情の存在を知らない後輩が「宣伝ですよ」と一刀両断に切った。


「たくさんの人に来てほしいからわざわざあんな煽りをしに出てきた以外にあります? これ。私たちのような一般人でも問題のない仕組みがあるのではないですかね」

仕組みメカニズム、ね。まあ、これほど大それたことを実現してんだ。それぐらいは簡単なことなのかもしれないな」


 俺はスマホを後輩に返すと、机の中から私物を探して机の上に出していく。

 その反応に後輩は少し不満そうだった。

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