第5話 技能:コスプレイヤー???
「それが出来たら苦労しないっての……」
「出来るはずだが?」
高等遊民にだけ許された生活を、地べたをふらふら歩いてきた俺が実現出来るワケ……
「妾と同じように、おぬしも配下を作ってやるべきことをやらせればよかろ。めんどうだから妾は関わらんが、おぬしが管理する分にはいくら増やしても構わんぞ。まー、付与されたのがどんな力でもやろうと思えば出来るじゃろ」
「……出来てしまう、のか……?」
「おぬし次第ではあるが。
「そんなゲームみたいな……ステイタス?」
いや、これはゲームだったか。まさか、本当に?
疑いながらも呟いた言葉に反応したのか、パッとA4用紙サイズのボードが目の前に出現した。
謎の不思議パワーにより
「マジでゲームじゃん」
限りなくブルーに近い半透明のボードが、謎パワーで出現、一定の距離を取って眼前に浮かんでいる。
タッチパネル式のボードには日本語で俺のステイタス項目が記されていた。
項目は多岐に渡る。
名称から性別、職業は元より、健康状態や貯金額、果ては俺がすっかり忘れていた月額アプリの契約状況まで記載されている。アプリの解約どうやるんだっけか。
ちなみにこれはステイタスの一部でしかなく、『自己』カテゴリの項目だ。
項目によってはさらに細分化されて確認可能となっており、すぐに全てを把握するのは難しい。一本一本の歯を別項目にしているのはどういう纏め方なんだ。虫歯があるらしいので歯医者に行かないと。
他のカテゴリとしては『領域』、『実績』などがある。
『実績』だけは記載内容が少ない。というのも行動内容を残す、記録のようなものみたいで、今のところはたったの二行だ。一行目は魔王と出逢う、二行目は魔王となかよしをしたこと。誰にも見せられない。
そして俺が確認しなくてはならないカテゴリが『技能』だ。
魔王によれば、俺に特別な能力が付与されているはず。
俺も配下を作って嫌なことを丸投げする生活をするのだ。
夢と希望と欲望にまみれて『技能』の項目をタッチする。
「やっぱり時間とか空間系統の能力が夢あるよなあ……」
そんなことを呟いたが、表示された技能を目にして言葉を失った。
特別技能に振り分けられた項目に記載されていた内容は。
「コス、プレイヤー?」
ちょっと意味が分からない。
どちらかと言えば技能ではなく職業の名称なのでは。
首を捻っていると、横から覗き込んできた魔王が言う。
「ほほう、包括職の技能か。なかなかの当たりではないか?」
「包括職? なにそれ」
魔王様はどうやら知っておられるらしい。下手に出て、伺いを立てた。
「付与される技能は基本的に一つなのじゃが、稀に複数の技能を包括した特殊な技能が付与されることがある。そう言った技能は職業の名称を取ることが多いらしいぞ。例えば商人だと計算が上手くなって、交渉能力だったり目利きが得意になったりする。その辺は個人差があるそうだけれども」
「それがこれだと?」
「職業名なのだろ? このこすぷれいやーというのは」
まあ職業か。あまり一般的な職業ではないけれども。
「おぬしに関係のある職業かと思うたが違うのか?」
「いや……見るのは好きだが、俺自身が関わったことはないな」
「ふむ。だが与えられた以上は素養があるのだろ」
「ハロウィンとかで安っぽい衣装触ったぐらいなんだけど」
激安の王道で売ってるようなのを着たのも、もう十年以上前の話だ。
あまり乗り気でない俺に対し、魔王は他人事のように答えた。
「おぬしが気付いていないだけで、実は才能が眠っておったのではないか。良かったな、日の目を見ることになって」
この年齢でコスプレイヤーの才能が発掘されても……。
容姿も特段に良いワケじゃなく、何より中年小太りした男なんだが。男でも需要のある人はいるが、俺は俺を魅力的な男だと思えるほど自我肥大はしていない。
「うーん……」
「ま、好きに悩むがいい。妾はおぬしに任せるのだから、妾に降りかからぬ限りは口出しすまい」
ひとつあくびをして、魔王は再びクッションに転がって堕落していく。
うーむ、自由だ。羨ましい。
「とにかく、せっかくもらったもんだし、試すだけ試してみるか。説明すら読んでないし」
「そうせい、そうせい。妾もせっかく与えたものゆえ、使ってもらった方が気分も良い」
「そうするか」
俺は『コスプレイヤー』の項目をタップして、詳細な説明を呼び出した。
『技能説明:華麗な舞の如き縫製術を習得可能になる』
イメージと違う内容、説明の少なさに目を擦ったが表示は変わらない。寝不足かと思って、先に寝ることにした。
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