第3話 まおうがすみついた!
やはり端的に表現するのであれば、異世界でも人口問題が発生していた、ということになるようだ。
星一つで賄えるエネルギー以上に生物が蔓延ってしまって、その対策として星の守護者が生物を大量虐殺したり、高消費エネルギー体を他の世界に追放したりといろいろやったが解消しきれなかった。
そんな時に、ある発明がトドメとなってしまったらしい。
「飢餓に苦しむ人間種の錬金術師が無限に自己増殖する豚を作ってしまってな。少量の餌さえあれば瞬く間に平原を埋め尽くす増殖速度」
少量とは言っても数が揃えばその土地を荒れ果てさせるのは容易い。蝗ならぬ豚害だ。
なお、本当にそれが俺の知っている豚かどうかは定かでない。どうやら自動翻訳されているとかで、近しい単語を選択しているそう。
質量も大きいので消費するにもしきれない豚はあっという間に大陸を埋め尽くしたという。
竜種の殲滅速度を上回る蔓延具合に星が滅びかけたところで、そこの世界を管理する超越存在が起死回生の一手を打った。
それが今回、俺の巻き込まれた『星の仔育成ゲーム』である。本当にこれが正式名称なのか?
異世界を舞台に対象者を送り込み、時限式で新たな星に強制追放するというのが本義であるこのゲーム。当然ながらプレイヤーに配慮はされない。
送り込む異世界は環境的に豚が生きていけないところとして、豚が死ぬ際に放出されるエネルギーで新たな星を育てる鬼畜具合だ。
星が成熟したらゲームは終了とし、参加者の中から管理者を設定した上で残存参加者を強制転移、という仕組みであるそうだ。
豚が星を食い荒らしても、そこには豚しかいないので気にしなくてよく。飯の無くなった豚はさすがに滅びていくだけ。
単純に生物を絶滅させるよりも、ゲームの形式を取って転移の方がコストは少ないらしい。超越存在の視点においては、の話。
これに味をしめたのか、管理するのが面倒くさそうなほど能力の高い生物が多くなると、適当にゲームに放り込んで自分の管理する世界から排出するようになったそう。
環境だけ上方修正してやれば、ゲームに強制参加させられる側にしても、管理者――新たな世界の神様になれるチャンスということで、割と受け入れられているとのこと。
「つまり、新たな星の神になるのがお前の目標ってコトか」
「違うぞ。いやだそんなのめんどうくさい」
殴りてぇ。
それじゃ、これまでの前振りは何だったんだよ!
「星の仔は参加者――
「まあ……ウン百年とかかかるなら気持ちは分かる。平和主義的に解決するのならそっちのがいいかもしれんが」
「星の神になれるのは一柱だから、結局血で血を洗う殴り合いは起こるぞ」
何にせよ、野蛮な結末には行き着いてしまうらしい。
「めんどうくさいとか言ってられる立場でないじゃないか。どうすんだよ」
「ふふ、妾には腹案がある」
魔王は鼻の穴を膨らませて自信満々に言った。
「だらだら過ごして、時期が来たら生き残っているやつに神の座を押し付ける。お互いが神になりたがっているという前提を崩してやればよい。めんどうなことはやらせるものよ」
「そう都合よくできるもんか?」
「できる。こういうものには裏道とか抜け道があるもんじゃ」
かなりの希望的観測に基づいた腹案だった。
抜け道なんてあるのかね。
疑心暗鬼になっている俺とは違い、万難を排したとばかりにゆりゅゆりゅした笑みを浮かべた魔王は、床に転がっていた人間を堕落させるクッションに頭を沈めた。
「さて、そうと決まれば妾は食っちゃ寝て遊ぶ生活を行う。よきにはからえ」
「高等遊民みたいなことを…………、うん……?」
魔王の言い草に引っ掛かりを覚える。
まるで俺がお世話をするかのような物言いをしているような……。
「も、もしかして俺の家に棲みつくつもりか……!?」
魔王は不思議そうな声音で問う。
「妾に付いて雑務を行うのが従者の役割じゃろう? 多少狭いが、ごろごろするには問題ないし、食も良い。服は、まあ妾はなくても構わんが人間種は気にするものだと知っておるからな、おぬしの好きなものでよいぞ」
「あのなあ、俺にも俺の生活があって、それを崩されると困」
「ああ、それとあの生殖の遊戯にも付き合ってやろう。他にも色々と遊び方があると言っていたものな」
「コチラごろごろ中、嗜むのに最適なせんべいというお菓子です。テレビでも観ながらごろごろしてせんべいをかじるのが、世の女性のだらだら手法の一つになります」
「なるほど」
俺の提言に従い、寝っ転がったまま渡した拳骨せんべいの袋を破る魔王。切れ目のないところからいとも簡単に裂いた。
俺はサイドボードに置いてあったテレビのリモコンを取り、テキトーなバラエティみのあるニュース番組にチャンネルを合わせた。
「ほうほう。仕組みは分からぬが、遠隔で情報を摂取できる道具か。どこの世界に行っても情報が娯楽になるのは変わらんなあ」
などと言って、こともなげに拳骨せんべいを噛み砕く魔王はもはや熟練の主婦たる風格を備えていた。
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