第9章 帰郷 4

 政の全般は上層部の12人の賢者と呼ばれる長老たちが執り仕切っている。

政治理念としては、自由、平等、友愛を三本柱に据えた自然環境に囲まれた癒しの生活空間、治安が維持された安心安全な社会をいた。

 他国というものが存在しないため軍隊というものは存在せず、有事の際の自警団があるのみだ。

但し、過去にそうした由々しい事態は一度も起こっておらず、その存在が衆人環視の目に触れたことは無い。

血生臭い内乱や政権を転覆させた革命などは、この世界の歴史上に存在しないのだ。

この先も自警団が日の目を見る機会は無いかもしれない。

まあ、それに越したことはない。

それはそうと、この世界の空には2つの(陽の目)がある。

 天空の対角線上には同じ大きさの2つの人口太陽が配置されており、2日周期で平面大地の上をあまねく周回する。

今日と明日の太陽は別物で、3日後の太陽は今日と同じ太陽だ。

 太陽を基軸として、気温や湿度、風速や風向き、日照時間や降雨量などの気象条件は過不足ないように自動制御されていて、1年の間に春と秋と短い夏がある温暖な気候が規則的に保たれている。

収容所内のものと合わせると人口太陽は全部で3つ存在することになる。 

 そして、この世界には月というものが無い。

無用の長物と見做されたのか、設計上困難と判断されたのか……。

月が無いことに疑問を抱く者などいない。

生まれた時からこの世界があるのだから。

太陽は2つあり、月は無い。

常識だ。

 月が無いだけではなく娯楽施設も無い。

レストランや酒場、ライブハウスや高級クラブやスポーツ観戦の施設なども無い。

ラジオはあるがテレビはない、新聞や雑誌もないし携帯電話も無い。

当然、美容院やエステティックサロンもない……。

収容所帰りの私からすれば、あまりにも刺激が無さ過ぎる世界だった。

 此処には収容所内のように欲望を解放する場所は無い。

欲を吐き出すどころか、かすかに滴らせる場所すら存在しない。

朝露ほどの快楽も追求してはならないのだ。

はっきり言って退屈の一言に尽きた。

馬鹿げた洗脳がないのは良しとしても、此処では個人の選択肢があまりにも少なすぎる。

個々人の価値観も似通り過ぎていた。

あまりに俗っぽさがなく、皆お綺麗過ぎるのだ。

人品卑しからぬ者が集う画一的な世界に見える……、今の私には。

 この世界ではすべての欲が悪徳とされている。

そうした観念が人々の心の隅々にまで浸透している。

特に性的な事柄に関しては、そうした傾向が強い。

出生率が低いのも頷ける気がする。

家族に子供がいても大抵は一人っ子だ。

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