第9章 帰郷 3

 リニアカーは地面から浮いた状態で移動する乗り物で、自家用型は所内のセダンタイプの半分くらいの大きさで大人2人と子供1人が一緒に乗ることができる。

因みに各方面に定期運行されているリニアバスの乗車人員は大人20名程になる。

支給される自家用リニアカーは色は選べるが、流線形の車体はすべて同じ型式になっている。

振動がなく快適ではあるが、向こうの世界で何種類もの自動車を乗り回していた私としてはいささか物足りない。

没個性的な単一な外観はともかく、自分で操縦する楽しみがないのだから。

当然レーシングドライバーなど存在しないし、レースを観戦する娯楽もない。

リニアカーは各世帯ごとに大人の人数分の台数が支給される。

男女共に13歳になると大人として扱われ、リニアカーを所持することができる。

操作は簡単だ。

車内にナビゲーションが内蔵されていて、液晶のタッチパネルに目的地を打ち込むだけでいい。

後は自動運転でその場所へと運んでくれる。

手動運転に切り替えることもできるが3日間の講習を受けなければならない。

講習を受けた後に認証番号が添付されたカードが交付され、初めて手動運転が許可される。

まあ、手動と言ってもタッチパネルを操作して方角を指定するだけなのだけれど……。

 動力となる燃料は水だ。

川の水でも井戸の水でも汚れていなければ使うことができる。

給油口に水を入れると車体に装備されている原子転換装置が水素燃料を生成してくれる。

水を原子分解させることによって動力源となる水素を抽出し、残った酸素は大気中に放出される。

水さえあれば半永久的に走行することが可能で、その上環境も汚染されない。

 車内には携帯電話の代替として通信機器が内蔵されていて、外部と無線交信することができる。

携帯電話は以前は使われていたが、今は禁止されている。

 また、コンピュータ機器も各家庭に支給されているが、個人所有は許されておらず、各世帯に1台のみ支給される。

祖父母が子供だった頃は携帯電話もコンピューターも1人1台ずつ支給されていたそうだ。

 70年程前に電磁波が引き起こす脳髄の劣化作用が確認されて以来、それらの電子機器の個人所有は禁止された。

据え置きのコンピューターにおいては社会的な利便性を考慮し使用禁止とまではならなかったが、各世帯に1台のみと制限された。

また、個人の使用時間は1日2時間までと上層部から勧告された。

 携帯電話に於いては肌身離さず持ち歩くという特性上、受信可能な状態であれば常に電磁波を浴び続けてしまうという懸念から製造中止となり、それ以降も所持している者には厳罰処分が課せられた。

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