第7章 深層心理 6
埃っぽい市街地から車で10分も走ると、窓の外は爽やかな風が吹き抜ける草原地帯となった。
一直線に続く道沿いには、(動物保護区)と書かれた標識がいくつも立てられている。
うっすらと夕闇が漂い始めた頃、走っている車窓から百獣の王と呼ばれる動物を視界に捉えた。
道路沿いの柵から100m程離れた所に数頭いる。
車を止めてダッシュボードから双眼鏡を取り出し車の中から様子を窺う。
体の大きな雄と雌に寄り添って仔ライオンが毛繕いしている様子がレンズ越し見えた。
外の世界のライオンと比べるとおそらく3分の2くらいの大きさだ。
この世界は樹木にしても同じように小ぶりだ。
環境が汚染されると大きな生物から絶滅してゆく。
現存している動物たちは体を小さくすることによって今の環境に順応できたのかもしれない。
収容所内では動植物を含めた自然環境は人間によって管理、保護することが最善策であるとする人間中心主義の観念が定着している。
というよりは、囚人たちはそう思わされている。
野生動物たちは保護という名目で捕獲され、生まれ故郷から拉致される。
その後、遠い見知らぬ地に搬送され、牢獄同然の狭い空間に放り込まれる。
そして、息絶えるまで囚人たちの見せ物にされる。
一般的には、陸上生物は(憩いの園)と呼ばれる檻に囲まれた見せ物小屋に連行され、水中生物は(癒しの館)と呼ばれる建造物の中に設置された観賞用のガラスケースに押し込められる。
それらの施設は囚人たちの辛労辛苦のガス抜きの場としては定番で、休日には多くの家族連れやカップルで賑わう場所となっている。
100年程前からこうした娯楽施設が収容所内に増え始めた。
民間人の野生動物の捕獲を規制する代わりに国家が大手を振って見せ物にする動物たちの生捕りを始めた。
当時はその事に対し眉を
今現在、この世に生きている囚人たちは物心ついた頃から施設の存在を見聞きして知っている。
すっかり慣れ親しんでいるのだ。
だから、こういったシステムに何ら痛痒を感じることはない。
彼らにとっては単なる行楽地に過ぎない。
また、個人で飼育される愛玩動物は過剰繁殖を防ぐという観点から、生殖器官を切除することを行政機関が奨励していた。
その一方で、動物の命を売ることを生業とした業者が合法的に存在したりする。
彼らは産めよ増やせよとばかりに動物を交配させ、生まれた子を(動物愛護牧場)という直売店に卸している。
店内には身動きが取れない窮屈な檻が多数陳列され、檻に入れられた動物たちはひたすら檻の中で囚人たちに買われるのを待つしかない。
驚くべきことに、そうした無慈悲な光景を目の当たりにしても苦言を呈する者も不快な感情を抱く者もほぼ皆無で、幼い子供たちですら嬉々として檻の中にいる動物たちに接しているのだ。
店舗で売れ残り成長しすぎた動物たちは殺処分の施設へ横流しにされるか、人目を偲んで野に放たれる。
運良く解き放たれた動物たちにしても、結局当局に見つかれば捕獲され死刑場へと連行されるという堂々巡りの悪循環を繰り返していた。
また、地域によっては犬や猫などには首輪が嵌められていた。
動物たちにとっては異物を装着される不快感はもちろんのこと、首輪の内側は常時湿気を帯びる為、ノミやダニの格好の住処となり、さぞ痒いに違いない。
更に酷くなると鈴なども付けられ、鋭敏な聴覚の持ち主にとっては拷問でしかない耳障りな音が四六時中鳴り響くのだ。
また彼らの餌として販売されている商品には発がん性の高い合成化学物質も多数含有しており、加えて動物の死骸を粉砕して混ぜ込んだ粗悪品も平然と流通しているという有様なのだ。
この世界では自らに準えれば分かりそうな虐待行為の数々が平然と日常的に罷り通りっている。
そこまで脳が鈍化してしまうのだ。
そこまで魂が劣化してしまうのだ。
まさに、それこそが洗脳の為せる業なのだ。
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