第7章 深層心理 5
今回は結果的には彼に鎌をかけた形になり、それにより虚偽報告が発覚した。
けれども私の中ではその件については正直どうでも良かったのだ。
彼の態度が癇に障っただけのことだから。
それだけのはずだった……。
今回の一件では思わぬ副産物があった。
私は銃を向けられても何も感じなかった。
つまり、銃の脅威が今の私には実感できていないということを自覚できたのだ。
私の生まれ育った場所は銃犯罪どころか軽犯罪すら皆無でその類の映画やドラマなどもない。
だから、こちらの世界に来てから初めて銃が登場する(恐怖映画)を観た。
いわゆる犯罪絡みのものや戦争を題材にしたものなどだ。
そういった映像を参考にして護身用の銃も購入したのだ。
頭では解っているが、未だに銃というものに恐怖を感じない。
こちらに来てもう5ヶ月近く経つというのに。
見方を変えれば、危機感の欠如ともいえる。
いずれその事が致命傷となる時が来るかも知れない。
洗脳は必要以上に恐怖を煽ることで人々を翻弄するが、本質的な恐怖を知らなければ、あらゆる場面に於いて生存率は低くなる。
銃の殺傷能力に関しては、野生動物のほうが私よりも熟知しているに違いない。
自覚した事がもうひとつある。
魂の奥底に潜んでいる飼い慣らさなくてはならない魔物をはっきりと捉えたことだ。
あの時、無意識に声質や口調を使い分け相手を翻弄した。
弱みにつけ込んで謝罪する相手を恫喝しながら、一方では沈着冷静に相手の動向をつぶさに観察し、冷徹に、いや冷酷に分析していた。
私はあきらかにその行為を楽しんでいた。
他者を痛ぶることに悦を感じていたのだ。
私の中に別人格のもう1人の私がいた。
違う、1人ではない。
あの映画大国でもそうだった。
あの時も初めて目にする見知らぬ自分が現れた。
もし外の世界に住み続けていたら、一生涯露呈しなかった一面かも知れない。
私という人間を構成するパーツの一部……、つまり私自身。
それが私という生き物なのだ。
私の中に底知れぬ闇が存在する。
あの看守と接触したことによって、それが浮き彫りにされた。
一度表出した自我の断片はトラウマ同様、決して消えることはない。
顔を背けやり過ごそうとしても却って逆効果だろう。
逃げることはできない、自分の中にいるのだから。
真っ向から向き合い、魂が死に絶えるまで付き合っていくしかないのだ。
知ってしまったが故に……。
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