第7章 深層心理 3
報告書を読み終え、不明瞭な点について切り出そうとした私に向かって、
あんたもどうだ、
と促すかのように無言で私の目の前にグッと酒瓶を突き出した。
仕事中だからと断る私の全身を品定めするかのように
「時代も変わったなぁ」
と、にやけながら呟き、
「この戦争は俺が仕切ってる、すべてお見通しだ」
「なんでも新しいものに飛びついたりしねぇんだ」
「ちまちまと映画作ったり、薬作ったりは性にあわねぇ」
「間引きするなら戦争が一番手っ取り早いじゃねぇか、
そう思わねぇか、ねえちゃ……」
と訊いてもいないことを並べたて、威勢よく吐き散らした。
彼が最後に言いかけた言葉に、一瞬頭に血が上り仕事中だというのを忘れそうになった。
この不作法な男は最後に、
「そう思わねぇか、姉ちゃん」
と言おうとし、その後に続く言葉を飲み込んだのだ。
公私混同する馬鹿にはそれ相応の態度で臨まなければならない。
私にも仕事上の立場というものがある。
一応、管理人は看守より上役ということになっている。
それに売られた喧嘩は買わなければ失礼だから、
「あなた強いんでしょ、その格好に相応しい最前線にでも行けば?」
と、故意に見下した口調で彼を挑発した。
暫しの沈黙の後みるみるうちに彼の酒焼けした顔の赤味が増し、こめかみと額の血管が浮き彫りになった。
あからさまな侮蔑の態度に怒り心頭に達した彼は怒髪天のような形相となり、
「てめえ、ぶっ殺すぞ」
と凄み、同時に肩に掛けていたマシンガンの銃口を私の顔に向けた。
酒臭い息を荒立てながら銃口を向けている彼の目を見据えたまま、
「やるなら、やれば」
と冷ややかに言い放ち、すぐさま、
この場で私が死ねば、生体探知機能とGPS機能でこの部屋で死んだのが分かるだろう、
私からの連絡が途絶え、あなたが生きていたとすれば真っ先に疑われるだろう、
今までの会話もすべて録音されている、
緊急時には本部へ自動送信される仕組みになっている、
そうなれば身の潔白をいくら訴えても事すでに遅しだろう、
その後の人生は良くて一生涯牢獄暮らしか、即死刑ということになるだろう、
と矢継ぎばやに畳み掛けた。
するとさっきまで茹で上がった蛸そのものだった顔色が、赤から白、白から蒼へと急速に変わっていった。
良く出来たCG画像でも見ているかのような急激な顔色の変容ぶりに思わず吹き出しそうになるのを堪えた。
こういう状況では決して笑ってはいけない。
真剣味が失せ相手に付け入る隙を与えることになる。
激情の勢いに任せ、彼の目から視線を外さず、
「立場を弁えな!」
と一際声を荒げて釘を刺した。
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