第3章 欲望 2

 夜の帷と共に華やかな賭場へ乗り込む。

この世界の娯楽を視察するためだ、

あくまでも仕事の一環だ、と自分に言い聞かせながら。

 着飾った客層でごった返す遊戯場の中を巡回するかのように縫って回る。

たまにゲームに興じる振りをしてテーブル席に着き、見よう見まねでカードを使った賭け事に参加した。

どのテーブルも同じだった。

イカサマなしでは胴元に勝てないシステムになっていた。

そんなことを知ってか知らずか、誰も彼もが一攫千金を夢見て血走った目をテーブル上に注いでいる。

私が注視するのは積み上げられた丸いチップではない。

私に対する異性の反応だ。

男を物色している私の眼はさぞかし彼らに酷似していたに違いない。


 私は走りだしたら止まれない暴走機関車だった。

自分でも驚きだったが、こういう性質だったのだ。

ただ単に私の世界には欲望を発散する場所が無かっただけなのだ。

この街は堕落するには恰好の場所だ。

頭の隅の方でかすかに警笛が聞こえる。

そうかと言って下手に急ブレーキを踏むのも危険に思えた。

取り返しのつかない脱線事故に繋がるかも知れなかった。

僅かに心の葛藤はあった。

が、最終的には気の赴くままに突っ走ればそのうち燃料が切れるだろうという楽観的思考に軍配が上がり、私はアクセルを踏み込んだ。


 終日営業のカジノに飽きた私は視察の場所を変えた。

この街にすっかり感化された私は来る日も来る日も際限なく使える出張経費を専用口座から引き落とした。

 晴れた日の昼間は海辺の町へ出かけ、散歩がてらの買い物を楽しんだ。

桟橋近くにある小洒落たレストランでワインを飲みながらピッツァや海鮮料理を食べるのが日課になった。

食後は華やかな水着に着替え、浜辺の日傘の下でデッキチェアに寝そべりながら本を読んだり、まどろんだり、暑くなったら泳いだりして午後の優雅な時間を過ごした。

 不思議なことに物欲と比例して食欲も増進した。

美食で名を馳せている料理店を検索し、ホテルの部屋から毎日予約を入れるようになった。

あまりの美味しさに1日に3食も食べてしまう日もあった。

食べ慣れない肉料理や魚貝類と一緒にワインを飲み、デザートにはどっさりと砂糖が入った洋菓子を食べた。

今までに体験したことのない濃厚な味わいだった。

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