第3章 欲望 1

 この街に2日間滞在して気づいたことがある。

私は自分を偽っていた。

看守との会談が終わった翌日から私は買い物魔になった。

幾らでも出張経費で落とせるのをいいことに、名の知れた上流階級御用達の店を梯子した。 

現地視察という名目で自己肯定しながら高いヒールの靴を何足も購入し、腰の辺りまでスリットの入ったスカートや貴金属に化粧品、妖麗な下着、その他にも女を飾る小道具を手当たり次第に購入した。

何かに取り憑かれたかのように......。 


 借りていたコテージは予定していた1週間分の宿代を支払い、滞在3日目にして引き払う運びとなった。

代わりの宿泊先として選んだのは歓楽街のすぐ傍にある超高級ホテルだ。

最上階のフロア全体を占めている庭付きのインペリアルスウィートという部屋が私の根城になった。

3つの寝室と広いリビングルームが2つ、小さな書斎部屋、室内ジャグジー、浴室が3つ、化粧部屋付きのトイレが3つ、ビリヤード台とバーカウンターが備え付けてある部屋、応接室、シガールーム、全面ガラス張りのフィットネスジム、その他にも2つの小部屋があった。

部屋の中には高価な絵画や品格のある調度品や秀美な骨董品などが置かれ、天井から壁一面まで趣を凝らした飾り付けがされていた。

 パソコンを活用した気楽で手軽な買い物も癖になり、ありとあらゆるものを部屋に招き入れた。

部屋の中は隅から隅まで生花店から取り寄せた多種多様な花で飾り立てられ、クローゼットは瞬く間に買い漁った華やかな服で埋め尽くされた。

大きな丸い硝子テーブルと備え付けのバーカウンターの上に、宝石類や金銀の装飾品の数々を展示するかのように綺麗に並べて置いた。

職人が手がけた色鮮やかなステンドガラスが傍で美を競い合っていた。

見ているだけで華やいだ気分になった。

すっかり耽美主義に傾倒していた。

全身が映る大きな鏡の前では服や装飾品を取っ替え引っ替えしながら組み合わせを思案し、口紅の色を塗り替えてみたりもした。

 気が向いた時にはセレブが集うメイクサロンに予約を入れて貸切りのリムジンで店の前に乗りつけた。

頭のてっぺんから足の爪先まで艶やかな大人の女に仕上げてもらうためだ。

美の職人たちの術は自己流のものとは雲泥の差があり、結局2日に1度は立ち寄るようになった。


扇情的なぴたりと肌に張りつく真紅の服……、

広く開いた胸元を引き立てる金色の煌めき……、

黄金に近似する琥珀色に染め上げられた髪……、

しなやかな指に光り輝く透明度の高い紅玉……、

白い肌を際立たせる蠱惑的な黒い下着……、

真っ赤なルージュで彩られた妖艶な唇……、


 それが今の私だった。

鏡の中の私は初めて目にする魅惑的な女だった。

享楽的な情婦のようにも見えた。

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