第2章 大富豪5
映像が終わると彼は18年もののシングルモルトを新たにグラスに注ぎ足した。
「囚人どもがいかに無知蒙昧であるか、よく解るドキュメンタリー映画だと思わんかね」
そう問いかける彼は、卑しむ者たちから寄贈された優越感を満面に浮かべている。
「戦争を演出するのは難儀な時代になったが、映像を駆使した大衆操作は電気の供給がある限り安泰だろう」
と、今後の見通しについても満足げな様子だ。
彼はソファーから立ち上がり、レコード棚から1枚の新しいアルバムを取り出すと、大きなラッパのスピーカーが付いた蓄音機にセットした。
ジャズから古典音楽へと変わる。
大音量の協奏曲で大広間が満たされる……、
別の空間へといざなわれる……、
黒から白へ色彩が塗り変わる…… 、
まあ、音楽は申し分ない……、
が、ご自慢のドキュメンタリー映画のより詳細な補足説明は……、
いつ話し出すのかな……。
彼は目を瞑り、音楽に耳を傾けたまま地蔵のように黙り込んでしまった。
恍惚としたの表情で音楽に聴き入る彼の邪魔をするかのように私は問いかけた。
4年前の計画の意図は何であるのか、
単なる人口削減を目的にしたものなのか、
それとも他に目論みがあるのか、
彼は眠たげな顔を上げて答える。
「薬液に仕込んである微生物が世界を一変させることになる。
そいつは深海に生息する無髄生物から採取したDNAを基に、最先端の遺伝子工学で生み出された新種の生命体なのだ」
……、瞭然としない返答に再度質問を重ねる。
「具体的には?」
彼は少し困ったような表情になり、仕方なしにという風に話し始めた。
「その微生物は遺伝子を改変するのだよ。
コンピュータウィルスのようなもので、人間が元来持っている体内細胞を別のものに変換してしまうのだ。
身体の内側で誰の目に触れることなく、細胞組織の入れ替えが日々進行していく。
別の言い方をすれば、新しい人類が誕生するということになる」
と注釈を加えた。
「改変された遺伝子の復元は可能か?」
という私の質問に、彼はこう答えた。
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