第11話
約1ヶ月間続いた放蕩生活に私は見切りをつけることにした。
満たされない色欲と際限のない物欲と安っぽい承認欲求に程々満たされた私は、次なる変化を求めた。
さしあたって、愛すべき堕落の街から足を洗うことにしたのだ。
必要のなくなった服や小物類は宿泊しているホテルの従業員に寄贈し、手放したものと入れ替わりに銃器取り扱い店で護身用の銃を購入した。
万が一の危急に備えて銃器の取り扱いにも慣れておいた方がいいと思ったのだ。
郊外にある射撃場に通い詰め、手持ちの銃が手に馴染むまで射撃訓練に明け暮れた。
銃器の扱いに熟知した元軍人から個別講習を受けたりもした。
自分なりにしっくりいくまで2週間を要した。
その後、ホテルの近くの自動車販売店で無骨な面構えをした頑強そうな四輪駆動車を購入した。
ダッシュボードの中に小型の護身用の銃を忍ばせ、すっかり身軽になった所持品と共にキャンプ道具一式を積み込み都市部を離れた。
街道沿いの食堂やモーテルに寄りながら、大自然の真っ只中を目指しひたすらハイウェイを疾走した。
大平原から山麓地帯に分け入り、濃緑に縁取られた山上湖の明媚な景色が私を立ち止まらせた。
誰もいない静かな湖畔でテントを張ることにした。
途中の可愛らしい佇まいの町で買った釣竿とルアーと擬似餌を使って陽が傾くまで食料調達に奮闘し、晴れて桃色の淡水魚を2匹釣り上げることができた。
山の背景が赤く染まりかけた頃、昼間の獲物を炭火で焼いて食べた。
澄んだ空気と透き通った湖水が故郷を思い出させた。
湖面を撫でる柔らかな風を肌で感じ、清澄な山鳥のさえずりに耳を傾け、焚き火の焔に見入っていると、五感が研ぎ澄まされ澱んだ魂が浄化されているかのような気分になるのだった。
月のない空には群青色のカンヴァスに描かれた大パノラマが拡がっていた。
精緻精巧な天体図を眺める私にはあの光の粒がどうして星と思えてしまうのか、
さっぱり理解できなかった。
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