第12話

 あらゆる意味で豊かな大国を後にし、凍てついた氷の世界にやってきた。

所内の地域ごとの寒暖の差には驚いたが、とりわけこの国の寒さときたら冗談にも程があるのではないかと、おもわず笑ってしまった。

ここは自殺率が所内でも抜きん出ているらしい。

原因は寒さのせいではないかと即座に思ってしまった。

身が引き締まるような極寒の地は映画の都で浮かれまくった私には丁度いいかもしれない。

 空港からタクシーでカラフルな色合いの建物を窓外に眺めながら、待ち合わせ場所のホテルへ向かった。

この辺りには空間上にホログラム映像を投影する照射装置が設置されていた。

天空にゆらめく虹色のカーテンは人体や環境にどのような影響を及ぼすのだろうか……。

完成当初は最先端技術の象徴として囃されたようだが、現在は神秘的な自然現象として周知されており、それを目当てに観光客が訪れるようだ。


 この街の目と鼻の先には世界の中心と呼ばれる場所があった。

その場所は(世界のへそ)と呼ばれていた。

そこには四角錐状の大きな建造物が氷河の下に隠されているという。

所内の観光名所としては筆頭格の(いにしえの王の墓)と同じ形の建造物だそうだ。

私が以前読んだ文献には、現在は封印されている(人知の及ばぬ諸刃の刃)として記述され、その下の行には(同じ轍を踏んではならない)という意味深な文言が添えられていた。

他に具体的な注釈は記載されていなかった。

 私は歴史の本を読むのが好きだった。

学校には歴史の講義はなかったが関連書籍は公立図書館で閲覧することができた。

この仕事に就いてから収容所の歴史文献を読み漁った。

収容所と呼ばれているこの地には1万年前から人が住んでいたという。

収容所の史実概要には、こう記述されていた。 

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