第24話 シモンとの決闘④

 覚悟を決めたアルスはありったけの魔力を全身に巡らせた。


「はあああああああ!!」


 紫のオーラがアルスの周囲を覆う。そしてグッと不死鳥を睨みつけた。


「来いっ!!」


 そう叫んだ次の瞬間、


 ――ズガアアアアアアン!!


 強烈な爆発音とともに白煙が闘技場全体を包んだ。


「げほっ、げほっ」

「い、いったいどうなってんの?」


 観客たちから戸惑いの声が上がる中、シモンだけは勝ちを確信し、大声で笑い飛ばした。


「あはははは! ざまぁみろ! これが僕の力だ! 僕は何だってできるんだ! 思い知ったか! あははははは!」


 しかし徐々に煙が消えて視界がクリアになっていくうちに、観客だけでなくシモンの表情からも驚愕の色が濃くなっていった。


「ば、馬鹿な……」


 なんと最上級の炎魔法を真正面から喰らったアルスが五体満足に立っているではないか。

 確かに制服は破れ、上半身は裸。その身体にはところどころ火傷の跡がある。

 しかしシモンを睨みつける赤い目の光は失われておらず、むしろ魔法を受ける前よりも色濃く輝いている。


「今度はこっちの番だ」


 ドンと地面を蹴ったアルスは、一息のうちにシモンの目の前までやってくると、再び右の拳で彼の胸のあたりを思いっきり殴りつけた。

 バンという大きな音とともにミスリル製の鎧は粉々に砕け、シモンの締まりのない上半身があらわになる。


「ひ、ひいっ!」


 情けない声をあげて後ずさるシモン。だがアルスは逃がさない。もう一歩前に踏み出し、今度はシモンのみぞおちに深々と拳を突き立てた。


「ぐはああああ!」


 シモンは息ができなくなり、顔色が赤から青に変わる。

 ガクリと膝を落とし、前のめりに倒れかかったところを、アルスは地面すれすれから繰り出すアッパーカットでシモンの顎を撃ち抜いた。

 歯が数本飛び、口からおびただしい鮮血が噴き出す。

 大の字になって倒れたシモンの顔をアルスは覗き込んだ。


「意識が飛ばない程度に手加減してやったんだ。感謝しろよ」

「ぐぬっ……下民のくせに僕を見下ろすな」

「ふふっ。まだ元気そうで安心したぜ。さあ、吐いてもらおうか。さっきの魔道具はどこからどうやって手に入れた? もし軍の武器庫から盗んだとなればおまえの重罪。父アンドレ卿から譲り受けたとなれば、アンドレ卿の重罪となる。どっちだ?」

「ふふ……ふははははは!!」

「なにがおかしい?」

「下民ふぜいがこの僕に尋問だと? ぷっ!」


 シモンはアルスの顔に向かって唾を飛ばした。


「まだ勝負はついちゃいない。むしろこれからが僕のショータイムだよ」


 そう言い放ったシモンは再び腰の袋から別の指輪を取り出してはめた。


「いでよ! 我が下僕どもよ!」


 アルスの背後に複数の魔法陣が展開されると、そこからなんと魔物が現れた。

 その中でもひときわ大きな魔法陣から姿を表したのは、巨大な角を2本はやし、猛牛のような頭と獅子のような体を持ち、全身を黒の毛で覆われた、見るからに狂暴そうなモンスターだ。


「ブラック・ベヒーモスか」


 今度はアルスが驚かされる番だったようだ。

 口が半開きになっている彼をよそに、そそくさと立ち上がり壁に寄り掛かったシモンはアルスを指さして魔物たちに命じた。


「この生意気な下民をなぶり殺してしまえ!」


 目を青く光らせた魔物たちは一斉にアルスに襲いかかったのだった。

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