第22話 シモンとの決闘②
◇◇
アルスとシモンの決闘の日の放課後。
闘技場と言っても帝都の中央にある国立コロッセオと比べると、かなりこんじまりしたものだ。だが、帝国ナンバーワンを決める決戦と同じくらいの熱気に包まれていた。
なぜなら二人の決闘を一目見ようという生徒と先生たちとで観客席が埋め尽くされているからだ。
そして闘技場の中央にミスリルの鎧に身を包んだシモンが仁王立ちで対戦相手の入場を待ち構えていた。そこにいつも通りの制服姿のアルスがやる気なさそうに入ってきた。
「わあっ!!」
生徒たちが一斉にわき上がる。
「きたぞ! 身の程知らずの下民が!」
「シモンさまぁ! こんなやつやっちまえ!!」
「そうだ! そうだ! シモン! シモン!」
巻き起こるシモンコールの中、アルスはシモンから少し離れたところに立つと抑揚のない声で問いかけた。
「なんでトキヤにあんなひどいことをした?」
「トキヤ? 誰のことだい?」
「とぼけるな。俺の大事な使用人をボコボコにしたうえに、腕に『ゴミクズ』と刻んでゴミ捨て場に放置しただろ」
「ああ、あれね。下民の下僕なんてゴミクズ以下じゃないか。それをゴミクズって認めてあげたんだから、むしろ感謝してほしいくらいだね」
「答えになってないぞ。なんであんなひどいことをしたんだ? 俺に直接決闘状でも何でも渡せばよかったじゃねえか」
「ははっ。まだ分からないのかい? この僕になめた態度を取ったらどんな目にあうか、警告してあげただけだよ。まったく下民は鈍くてかなわないな。ははははっ!」
うつむいたアルスが小刻みに震えている。その様子を見て聴衆たちから歓声があがった。
「あははは! あいつ、怖くなって震えてるぞ!」
「やっぱり下民は下民だな! マテウス卿の後ろ盾があるからって調子に乗ったバツだ!」
「シモン様、やってしまえ!!」
アルスの脳裏には回帰前に受けた屈辱の場面がはっきりと浮かんでいた。
そう帝国軍の幹部たちの前で土下座をさせられた時のことだ。
「この国の貴族どもは腐ってる……。だからそのガキどもも腐ってしまうんだ」
「はあ? 声が小さすぎて何言ってるか聞こえないんですけどぉ? はははっ! つべこべ言ってないで早くかかってこいよ! ほら、ハンデに最初の一発はおまえにやるから」
ニタニタと余裕の笑みをうかべたシモンが両手を大きく広げてアルスを挑発する。
アルスはゆっくりと顔を上げた。
「それはありがたいね。だったら俺もハンデをくれてやる。俺は剣も魔法も使わずに貴様をひざまずかせてやるよ」
「はははっ! 下賤のゴミクズには分からないようだね。これは世界でもっとも硬い鉱石のミスリルでできているんだ。君がどんなに優れた武器や魔法を使っても、僕には傷一つつけられないんだよ! 最初からね。ははは!」
「いちいちセリフが長いんだよ。小物野郎。では遠慮なく最初の一発はいただくぞ」
アルスの目が赤く光る。強く握られた拳に紫の光がまといはじめた。
「僕が小物だと!? 取り消せ! 今すぐ!!」
顔を真っ赤にして唾を飛ばしたシモンに向けて、アルスは一直線に飛び出した。
あまりのスピードにシモンの顔が思わず引きつる。彼が驚愕の一声をあげる前に懐に入ったアルスは右の拳にありったけの力を込めて、ガラ空きの脇腹を殴りつけた。
――ドゴォォォォン!!
轟音が闘技場全体に響き渡ると同時に、シモンの体は吹き飛び、遠く離れた壁に叩きつけられた。
「ぐはぁぁ!」
バタンと前のめりに倒れたシモンを見て、騒いでいた聴衆たちはシーンと静まりかえる。
そんな中、アルスはゆっくりとシモンの方へ歩いていく。そして口角を上げてつぶやいた。
「さあ、地獄のはじまりだ。覚悟しろ」
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