第21話 シモンとの決闘①

◇◇


 決闘当日の昼休み。購買でパンを買って校舎の屋上にやってくると、いつも友人と仲良く昼食を取っているはずのミリアが俺を待っていた。そして自分の隣に腰をかけるよう要求してきた。仕方なく指定された場所に腰かけると、彼女はため息をついた。


「学校中の話題はあんたとシモンの決闘のことで持ち切りだっていうのに、のんきなものね」

「別に昼休みに何しようと俺の勝手だろ」

「それはそうだけど……。今日も菓子パンだし」

「今日もって、なんでおまえが俺の昼飯が毎日パンなのを知ってるんだ?」

「んなっ!? そんなの今はどうだっていいでしょ!」

「ああ、そうだな。いずれにせよ俺が何を食おうが俺の勝手だろ」


 俺が素っ気なく返すと、ミリアは顔を真っ赤にして声を荒げた。


「だから! 菓子パンだけじゃ放課後の決闘にパワーが出ないでしょ、って言ってるの!」


 そう一息に告げたミリアは赤いチェック柄のナプキンに包まれた箱をずいっと突き出してきた。


「これ」

「弁当か? わざわざ俺のために作ってくれたのか?」

「ち、違うわよ! 勘違いしないで! 私の分の余りを入れてあげただけなんだから! 感謝しなさい」


 よく見ればミリアの細い指にはいくつも絆創膏が巻かれている。

 慣れない料理をした証拠だ。


「ありがたくいただくよ」

「ふん。べ、別にあんたがどうなろうと知ったことじゃないけど、あのシモンのバカが調子に乗るのが許せないだけよ」


 弁当箱を開ける。お世辞にも綺麗とは形容しがたいが、確かにパワーがつきそうなおかずがぎっしりと詰まっていた。

 一口ほおばる。想像通りに濃い味付けだ。でも美味しいのは確かだった。


「ミリアは剣だけじゃなく料理もうまいんだな」

「んなっ!? べ、べ、別にそんなことで褒められても嬉しくもなんともないんだからね!」


 ふいっと顔をそらしたが明らかに嬉しそうに口角がぴくぴく上がっている。

 ぺろりと弁当を平らげた後、少し疑問に思っていることを聞いてみた。


「なんでそんなにシモンに厳しいんだ?」

「別に厳しくしているわけじゃないけど……。幼い頃はあんな横柄な態度のやつじゃなかったのよ。泣き虫で、なにかあれば私が助けてあげたんだから」

「そうか。今の彼からは想像ができんな」

「ええ。あんな風に他人を見下し、弱い者いじめをするようになったのは、彼の父親が帝国軍の中で力を持ち始めた頃からよ」

「つまり親父が偉くなったから、自分も偉くなって当然だと……ガキだな」

「昔みたく弱虫に戻れなんて言わない。でもせめて他人を傷つけるようなことはやめてほしい。見てて気分が悪いわ」


 そりゃそうだ。当のシモンは決闘状を俺に送りつけて以来、一度もアカデミーに登校していない。

 どうせろくでもない準備にいそしんでいるに違いない。


「ねえ、お願い! あんたがパパを助けたことはまだ信じられないけど、強いのは認めるわ。だからシモンをぎゃふんと言わせて」

「お願いされなくてもそのつもりだ」


 俺は空になった弁当箱をミリアに渡すと、すくりと立ち上がった。


「ありがとな。このお礼はいつかするから」

「んなっ! べ、べ、別にそんなのいらないわよ! ただのついでだったって言ったでしょ!」


 俺は顔を真っ赤にしたまま動かないミリアをそのままにして、その場を立ち去った。


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