第2話 同窓会の話
「同窓会楽しんで来てね。帰りに電車に乗ったらさ、LIMEちょうだい。迎えに行くから。」
彼は笑って私を高校の同窓会へ送り出してくれた。
今の彼とは大学二年生のときに出会った。その頃のわたしはまだ高校生の時の失恋をひどく引きずっていて・・・
そんな私を見かねた友人が私のためにと開いてくれた合コンで知り合った。
初めて見た時の印象は、ひたすらニコニコしている人だなぁと思ったくらい。
よく言われる"良い人"どまりの代表みたいな感じだった。私が大好きだった元彼とは全く逆のタイプの人だった。
話すキッカケになったのは私が携帯につけていたお気に入りのイラストレーターのアクセサリーだった。
「その人の絵良いよね。僕も好きなんだ。」
「あっ、そうなんですか。」
「うん、なんかすごい惹かれるんだよね。PVとかにも最近たくさん絵を提供しててさ、それがキッカケで知って好きになったミュージシャンとかもいてさ。」
「あー、そういうのありますよね。でもこのイラストレーター結構可愛い系だから、男の人で好きってなんか、ちょっと珍しいですね。」
「そうかなー。可愛いけど・・・でも少し陰があってさ。男でも好きな人は結構居ると思うよ。」
「そうなんですかね?じゃあこの人の絵とかも好きだったりしますか?」
そのあと私が好きな他のイラストレーターの話から、音楽、映画の話をして話がだいぶ盛り上がってしまった。
その中にはもちろん彼の知らないモノも沢山あったけど、ニコニコしながらずっと私の話を聞いてくれた。
気付いた時には、いつの間にか合コンは終わっていた。
「蓮華〜?なんか楽しそうだったじゃん。やっと踏ん切りついて、次に行けそう?」
「うん・・・どうなんだろ?正直わからないよ。」
「そっか、そっか。でもまずは今日来てくれてありがとっ♪再来週の銀座にはちゃんと付き合うから!」
「うん、陽那。ありがと。」
彼とは最後まで趣味の話をしただけで、連絡先とかの交換はしなかった。
「今度銀座の竹屋であのイラストレーターの展覧会があるじゃないですか?友達を誘って行こうと思ってるんです。」
「そうなんだ。僕も行こうと思ってて先行の日時指定チケット買ってあるんだ。もし会えたら面白いね。」
彼と交わした会話を思い出す。その時に私も少しだけまた会えたら良いなと思った。
後日、陽耶と展覧会に行くと彼が列に並んでいた。
「ねぇ、蓮華!あそこに並んでいる人さ、この前の合コンに来てた人じゃん。見終わったらさ、話しかけてみようよっ?」
そして展覧会を見終わったあと、陽那が話しかけて、3人で食事をすることになった。
陽那は彼のことが友人として気に入ったみたいで、それから大学で顔を合わせれば挨拶するようになり、3人で話す機会が増え、そのうち一緒に遊ぶようになった。
私と彼の関係が変わったのは、大学三年の夏だった。彼の方から私に告白をしてきてくれた。
彼の私に対する感情が好意に変化していたのは、冬くらいからなんとなく気付いてはいたけれど・・・
その頃には私も彼に対して少なからず好意を持ってはいた。でも心にはまだ元彼に対する想いが残っていて・・・彼に対する感情は秘めたままにしていた。
私は・・・元彼の浮気が原因で別れた。
私から元彼に別れを告げた。大好きだった元彼の浮気を私は許すことが出来なかった。それでも・・・まだ大好きだった。
実質、私が元彼に振られたようなモノだった・・
彼に告白された時、私は正直に自分の気持ちを伝えた。彼に対して好意を持ち始めている気持ちと元彼に対する想いを自分なりに精一杯伝えてみた。
彼は優しく笑って、
「それでも構わないよ。僕と一緒にゆっくり前に進んで行ってくれないかな?」
私は彼の好意を受け入れることを決めた。それから彼は私をたくさんの愛情で包んでくれた。
それはとても幸せで、徐々に元彼への想いは小さくなっていった。
それから元彼のことはほとんど思い出すことは無くなって、大学卒業を機に彼と同棲を始めた。
そして同棲を始めて2か月が経った頃、高校の同窓会の便りが来た。
「和仁、同窓会どうしようかな?」
「久しぶりなんでしょ?陽那ちゃんも行くんだろうし、一緒に行ってきたらいいんじゃないかな。」
「そっか、そうだよね。うん、分かった。
じゃあ陽那に連絡して、陽那が行くようなら私も行くね。」
私の心が少しだけチクッとした。きっと元彼も同窓会に来ているだろうな。和仁は私が心配じゃないのかな?色々な想いが混じった小さなトゲだった・・・
ーーーーー
そして今、同窓会の会場に陽那と一緒に着いた。
「蓮華、陽那、久しぶりー」
「元気してたー?」
「元気だよー!みんなも元気そうでなによりだねー」
地元のホテルの広い会場には懐かしい顔がいっぱい居た。こうしていると何となく高校時代に戻った気がして、みんなと久しぶりの会話をたくさん楽しんだ。
「たまには地元に顔を出しなよー。連絡してくれたら時間を作るからさー」
「うん、まぁね・・・なかなか忙しくて。あっ、ごめん。お酒が無くなっちゃった。ちょっと取りに行ってくるね。」
私は大学入学と同時に上京してから、地元にあまり長く帰ることは無かった。元彼に会いたくなかったし、風景を見るたびに元彼との楽しかった事を思い出してしまい胸が痛くなってしまうから。
だからせいぜい実家にお盆とお正月に帰るくらいだった。
「あっ・・・・」
「ああ、久しぶり。」
お酒を取りに行くと、そこには元彼の佑紀が居た・・・
顔は付き合っていた頃と変わらない端正な顔立ちのままだった。だけど茶色に染められていた髪は黒髪になっていて、だいぶ落ち着いた印象に変わっていた。
・・・私は佑紀に会って、自分がもっと動揺するかと思っていた。
あんなに大好きで、別れた時あんなに辛かったんだから・・・
でも実際は元彼と会っても、私の心はとても穏やかだった。
「元気だった?」
私の方から聞いてみた。
「まぁ・・・ぼちぼち。あのさ、あっあの時は本当にごめん・・・」
佑紀はおずおずとあの時のことを謝ってきた。
「うん、もういいよ。過ぎたことだしね。
じゃあ私、もう行くね。」
そう佑紀に伝えた時、私の中の彼に対する想いの残滓が綺麗に泡となって消えていくのを感じた。
なんだ、私はちゃんと和仁に心のキズを綺麗に癒してもらってたんだ・・・
私は急いでみんなのトコロに戻った。
「陽那、ごめん!わたし・・・」
「ん〜、蓮華?もしかして・・・和仁君のトコに帰りたくなっちゃった?」
「うっ・・・うん。」
「分かった。いいよ、早く帰ってあげて。和仁君も今頃、すご〜く心配しているだろうしねっww」
陽那が悪戯っぽく笑って許してくれた。
「え〜!もう帰るの〜、蓮華〜?」
「もうちょっと話そうよ〜?彼氏についても、もっと詳しく教えてよ〜!」
「みんな、ごめんっ!今度、私の彼氏と一緒にこっちに帰ってくるから。その時、彼氏もみんなに紹介するねっ。」
それから急いで駅に向かって電車に乗り、和仁にLIMEを送った。
「今電車に乗ったよ」
ピロリン♪
文字を送ったあと、どんなスタンプを送ろうかと考えている間に和仁から返信があった。
「了解」と短く書かれた文章と一緒にスタンプが送られてきて・・・
そのスタンプは私達が話すキッカケになったイラストレーターの人がアニメの「2人はラリキュア」の20周年コラボで作ったスタンプで、
主人公の女の子がめちゃくちゃ笑顔で「うんっ♪」と書いてあるスタンプだった。
電車が駅に着いて改札にいくと、和仁が立って私を待ってくれていた。
私は嬉しくて、思わず和仁の元に走っていき、抱きついてしまった。
私の背中に手を回し、強く抱き返してくれる和仁。その腕が少し震えているのが分かった。
「おかえり、蓮華。」
私は電車に乗りながら、和仁に会ったら伝えようと決めていた言葉があった。
「ねぇ、和仁?あのね、私と・・・これからもずっと一緒に歩いていってくれますか?」
少しだけ間があって・・・
それから和仁はとびきりの笑顔で答えてくれた。
「うん、もちろん!!蓮華、結婚しようっ!」
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