03 『コミック』『不本意』『体育祭』
ホームルームが終わり、女子しかいない教室は途端に騒がしくなる。体育祭の種目が発表されたからだ。
「私とペアになれ」
堀の深い顔が私を覗き込む。びっくりした。強気な誘い方も相まって、いつもとは迫力が段違いだ。
ペア? ああ、二人三脚ね。相手を決めておくようにと先生が言っていたけれど、どうやら彼女は私と組むことにしたみたい。
「……い、嫌ですか?」
さっきの語気と命令口調はどこへやら。そんなに改まって誘わなくてもいいのに。いつも一緒にいるんだから、普通に考えれば私達が組になるはずだし。
「ペアにならないと――」
私が返事しないのを否定だと捉えたのか、彼女は急いで自分の席に戻って鞄に手を突っ込む。そして何か持って戻ってくると。
「このコミック返さない」
「ええ?」
手を銃の形にして漫画に向け、不敵な笑みを浮かべた。ちょっと様になっていてかっこいいかも。
いやそもそも。なぜこの漫画が人質に取られているんだろう? 貸したんじゃなくてあげたのに。
「どうする?」
銃口が漫画に食い込みそう。指の曲がり方が心配になるけれど、必死さがいじらしくて思わず笑ってしまった。
「ど、どうする?」
「いいよ。ペアになってあげる」
「本当? ありがとう!」
無邪気に抱きつこうとしてくるから、今度は私が手で銃を作る。
「不本意だけどね」
銃口に怯んだ彼女は、私の机に漫画を置いてから控えめに両手を上げた。表情には疑問符が浮かんでいる。不本意なのは漫画返却が条件になっていることであって、二人三脚の相手になることじゃない。でもまあ、さすがにちょっと難しかったか。
「不本意って分からない?」
私が聞くと、彼女は小さく肩をすくめた。
「すみません。私は日本語まだ下手です」
「そんなことないよ」
私は武装を解いて彼女の頭をなでる。同い年なのに大人っぽく見えるけれど、恥ずかしそうな笑顔は年相応でかわいらしい。
「またいっぱい漫画持ってくるね」
「はい! お願いします! ありがとう! あー、ハグ……」
「いいよ」
そして今度こそ、私は彼女の抱擁を受け入れた。
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