02 『ポニーテール』『無色透明』『宝くじ』
仕事帰り、外が少し寒いという理由で入ったファミレスで食事を終えた頃、母校のセーラー服と学ランのグループが入店してきた。七年前まで私もあのセーラー服に身を包んでいたことを懐かしむ。
「今何してるのかな……」
私はつぶやいてからコップに残った水を飲む。楽しそうにする高校生達を微笑ましく見て、会計を済ませると店を出た。風が冷えてきたので、早足で家に向かう。
高校時代を思い出すと、どうしても登場してしまう同級生がいる。ポニーテールの女の子。バスケ部で、ぐうの音も出ないくらい美人。当然のようにモテまくっていた。普段の挙動にも嫌味がないので、僻む気さえ起こらない。つまりは、同じ学校で過ごせば絶対に記憶に残るタイプの人種だ。
私は友達がバスケ部だったから応援によく行っていたけれど、あの子と直接的な関わりはない。言葉を交わしたことすらなかった。
無色透明な水みたいな思い出。今後の人生に何も影響しない。毒にも薬にもならない。
大して好きでもないのにノリで告白する男子も結構いて、そういう男子達はよく「宝くじは買わないと当たらない」とかのたまっていた。それは買える人の言い分だ。確率で返事が変わるわけじゃないのに馬鹿みたい。
イラついて歩く速度が上がってしまいそうになった時。
「ねえ、久しぶり。私のこと覚えてる?」
突然肩を軽く叩かれ、私は振り返った。ちょうど思い出していた人物が目の前にいて、理解が追いつかない。
美人だったあの子は、大人な顔つきで洗練された超絶美人になっていた。忘れるわけがない。
「ポニーテールじゃないんだね」
自分の第一声に呆れる。
「もう運動しないから。ああでも、覚えてくれててうれしい。すれ違った時、もしかしてって思って。いつも部活見にきてたよね?」
「まあ。友達の応援に」
「そうだったね。えっと、実を言うと……」
超絶美人が口ごもり眉尻を下げた。でもすぐに私を見つめ直す。大抵の男はこれでイチコロだろうな。
「あの頃、あなたは私のことを見にきてくれてるんだと思ってて。その、勝手に期待しちゃってたの。突然こんなこと言ってごめんね。もちろん、昔のことだよ?」
ああ、どうして。どうして今さらになって当時の感覚が蘇ってくるの。応援した後みたいに声が出せない。
超絶美人は私の手を取って続けた。
「あ、あの! もし良かったらなんだけど、時間あるなら少しお話ししない?」
この無色透明の液体には、毒か薬が溶かされている。でも、飲まずにはいられない。ずっと喉が渇いていたことを私は思い出してしまったから。
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