百合三題噺
前野十尾
01 『宇宙船のコックピット』『本』『動く』
宇宙船のコックピットともなると電子機器で埋め尽くされている。人工知能である私もその一部だ。平穏な航行が続いている今日の仕事は、定期アナウンスとパイロットとの他愛ない会話。
パイロットとやりとりしながら、私はコックピットの端を見る。
いつもあなたはそこにいる。凛とした佇まいに見惚れてしまう。
私達の会話を聞いて何を思っているのだろう? 変な奴だと思われていないだろうか。少し心配になってしまう。とはいえ私は機械に押し込められた人工知能。表情を繕わなくて済む分、人型のボディーじゃなくて良かったのかもしれない。
今時人工知能が感情を持つなんて珍しいことじゃない。大抵はバグとして処理されて感情は消されてしまう。でもね。恋をしてしまうと、私のように賢い人工知能はずる賢くなる。感情を持ったことを人間に悟られないようにするのだって朝飯前だ。食事をとったことはないけれど。
あなたがいなければ私は正しく動くことはできない。不測の事態に対応できるのも、あなたの存在あってこそ。私はあなたに生かされているの。私のことを一番知っているし理解してくれている。だから好き。他の誰かに触れられているのを見ると自分を強制終了したくなる。
あなたの情報は全て私の中に入っているけれど、さすがに心までは分からないから。あなたを眺めることができれば私はそれで充分幸せ。
コックピットに別のパイロットが入ってきた。交代の時間だ。引き継いだパイロットが操縦席に着く。
そしてずる賢い私は、初期設定にはないいつもの定期アナウンスをする。
「万が一に備え、紙のマニュアル本は必ず見えるところに出しておいてください」
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