第65話 寝耳に水

§ガウェイン視点§

 私が負けた?


 無能な我儘娘と呼ばれたあのリディアーヌを相手に? 国宝級の武器を使ったのに手も足も出ずに負けた……だと。


 いやそんな訳がない! きっと辺境伯家に保管されている国宝級の装備を身に着けていたんだ。そうだ不正をしていたに違いない。だからこんな結果になったんだ!


「リディアーヌ! 模擬戦なのに特殊な装備を使用するとは卑怯だぞ! こんな結果は到底受け入れられない再戦だ」


 私は卑怯な手を使ったリディアーヌを咎めて、模擬戦のやり直しを告げる。第二王子の言葉は絶対で、周りの者も追随すると思ったのだが、どうも反応がおかしい。


「お前……、本当にバカなのか? リディの装備は演習場に備えられている模造品だ。仮にリディが特殊な装備を使用したとして、同じ特殊装備を使っていたお前が卑怯だと言うのか?」


 審判を務めたアンジェラの言葉を聞いて、私は『ハッ』と思い出して言葉を失った。負けたことで冷静さを失い、国宝級の武器を使っていたことを失念していた。思わぬ失態を犯してしまい、この場を切り抜ける為に王家の威厳を振りかざすことにした。


「私は王位継承権を持つ選ばれし者だ。貴様達とは違い何をしても許されるが、ただの家臣であるリディアーヌ如きが、私に対して特殊な装備を使うことは不敬にあたる! 父上に報告したうえ、厳しい処分を下してやるから覚悟していろ」


 所詮は王家に仕える愚民どもで、最終的には私の前にひれ伏すしかない。今の発言を聞けば反論することはできないはずだ。私は内心焦りながらも演習場から去って行こうとした。


「ガウェイン待て!」


 突然、この場に居ないはずの兄上に呼び止められた。学年も違うし授業も終わっていないので驚いたが、私の味方が現れたと思うと、一気に形勢が逆転したと喜んだ。


「兄上! レイバック家が不敬を」

「辺境伯家が不敬だと? お前は王家の者としての常識を学んでいないのか? レイバック辺境伯家は王家と対等なのたから、不敬なんてことはありえない。それに、お前の王位継承権は父上によって剥奪されている。そんなお前が犯した失態を、王家が庇うことは一切ないと思え」

「なっ……、剥奪? そんなバカな!」


 王家と辺境伯家が対等? 私の王位継承権が剥奪されている? 兄上の口から出た言葉を聞いて、全く理解が追いつかずに放心状態になる。


「王位継承について話があると言われたのに、お前はその場に現れなかったから知らないんだよ。一応は王家に名を連ねてはいるが、入学式の失態で王位継承権は剥奪となっている。今日の愚行の陛下へ報告すれば、更に厳しい処分が下るだろう。覚悟しておくんどね」

「そ、そんな……」


 私の知らない所でそんなことになっていたなんて……、これから自分がどうなるのか考えると、血の気が引いてその場に崩れるように座り込んだのだった。


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