第64話 リディアーヌの自覚

 ここまでの模擬戦はSクラスの圧勝で、ランベルトの表情から余裕はなくなり少し青褪めていた。お父様が高等科学園に根回しをした等と言って、レイバック辺境伯家を愚弄したのだから当然のことかな。


「さぁ、模擬戦の最終戦を行う。リディとガウェインは前に出ろ」


 叔母様の言葉と同時に、私は両手の拳を握りしめてから前へ歩みだす。


「リディ、お義父様との訓練と同じようにすれば、あんなヤツには余裕で勝てるからね」

「そうです、姫様なら余裕です」

「あっ、うん……」


 ファビオ達は私の勝利を疑っていないけど『自分は無能』だと理解している為、勝つ自信なんて全くなくて、ただ全力を出し切ろうとだけ思っていた。そして不安な気持ちのまま前に進むと、私とは逆にガウェイン殿下は自信満々な表情で、試合開始の合図を待っていた。


「リディアーヌ、なかなか優秀な従者を持っているようだな。無能なお前には勿体ないから、私の従者として仕えさせてやる。その方が奴等も幸せだろう」

「……」


 これから模擬戦をするのに『ペラペラ』と小声で話しかけてきたけど、その内容は完全に私を見下したもので、ガウェイン殿下に対し嫌悪感で気分が悪くなる。


 審判を務める叔母様にも聞こえたようで、目を細めて殿下のことを睨みつけていた。直ぐに試合が始まらないことで、周りが少し騒々しくなり始めると、私は叔母様へ強い意志を込めて視線を送る。すると『ニヤッ』と笑みを浮かべながら試合開始の合図をした。


「準備はいいな? では始め!」


 開始の合図と同時に殿下が動く。手にした槍を強く握りしめると『パアッ』と発光したので、魔力を流したのだろうと理解した。自信満々な表情をしていたのは、リリアと同様に特殊な装備を持っていたからだろう。


「直ぐに終わらせてやる!」


 殿下は槍先を私へ向けて突きを放つ。単純な突きなので、右鞘の剣を左手で抜いて突きを受け止めようとするが、剣に槍先が触れようとしたところで、槍先の形状が変化した。


『シュッ、パァッ!』


「えっ……」


 このままでは受けきれないと思い後方へ回避するが、槍が伸びて追いかけてくる。これは付与が施されたなんてレベルの代物ではない。でも、お父様の突きの速度はこんなものではないので、容易く躱すことができた。


「なっ、なんなんだ! 近衛の者でもこれを躱すことはできないんだぞ!」


 自慢の武器が通用せずに焦る殿下。普段から日々の研鑽に励んでいれば、手に持つ武器を使いこなせたはずなのに。


 殿下の動きを完全に見切った私は、一気に間合いを詰めて、懐に入ると左の鞘から剣を抜いて、柄頭を槍を握る殿下の手に『ガツン』と当てた瞬間、『ポトリ』と槍を落としたところで勝負あり。


「あっ……、しまった」

「そこまで、勝者リディ!」


 私が勝った? 本当に無能と言われた私が勝ったの? 殿下との模擬戦に勝利したことで、もう『無能な我儘娘ではないのでは』と自覚をした瞬間だった。

 


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