第57話 絡まれ体質なのかな?②

 教室の席についてホームルームが始まるのを待っていると、1人の生徒が私の席の前に立ち声をかけてきた。


「リディアーヌ嬢、おはようございます」


 確か、魔術試験で一緒だったヴァレンティ家の令息だった。にこやかな表情で話しかけられる理由はなんだろう? 朝からやたらと声をかけられるなと思ったけど、名で呼ぶことを許した覚えがないので、私は返事をせずにサンドラに視線を向けると、私に代わって対応をした。


「どなたか存じませんが、姫様が名で呼ぶことを許した者以外が、名を呼ぶなどマナー違反ですよ?」

「これは失礼しました。私はフランチェスコ.ヴァレンティという者で、ヴァレンティ聖教国からの留学生です。リディアーヌ嬢の母上であるアルテイシア叔母様とは血縁の者なので、名で呼ぶことを許されると思っていました」


 フランチェスコの口から、彼とお母様は血縁者という言葉が出た。私は彼の存在を知らなかったけど、お母様の血縁者と聞けば無視する訳にはいかないので、ここからは直接対応することにした。でも大叔父様以外にお母様の血縁者なんて、妹にあたる叔母様が癒しの聖女をしているくらいしか知らなかった。とりあえず叔母様の名前を出して様子を見ることにした。


「お母様の血縁者ということは、クリスティーナ叔母様のご子息なのですか?」

「いいえ、アルテイシア叔母様の叔父にあたるチェザーレの孫にあたります」


 なんと、あの不思議な雰囲気を纏っている大叔父様の孫だったのね……。少し怪しげな雰囲気なところは、流石は血縁者といったところかな?


「あぁ、大叔父様ですか。それだと遠い血縁者といったところですね。ただ、このファーガソン国では、貴族女性の名を呼ぶには許しが必要なのです。血縁者とはいえ十分に気をつけてくださいね」

「判りました。それで、名で呼ぶことを許していただけますか?」

「はい、許します」


 会話の間もにこやかな表情のままで、心の内を全く悟らせない様子が少し気持ち悪く思えた。ただ、私達と違って聖職者を目指す者は、人との接し方も全く違うアプローチなのかなと思っていると、叔母様に続いてアルバロンとソクラテス先生が教室へ入ってきたので、フランチェスコは笑みを浮かべながら頭を傾けてたあとに、自分の席へと戻っていった。そして教壇に立った叔母様は教室の周りを見渡すと、最後にフランチェスコを軽く睨んでから口を開いたのだった。


「小僧、聖職者を目指すのだろう? 下賤な目つきでリディを見るな」

「そのようなつもりは……」


 フランチェスコは叔母様の厳しい言葉に、驚きの表情を見せながら言い返そうとするが、叔母様はさらに厳しい口調で注意をした。


「その視線は不純で私の天使を汚す。今回は見逃すが同じことを繰り返せば、その目を潰すから覚えておけ」

「……はい」


 叔母様の教師とは思えない言葉のせいで、教室は静まり返ってしまった。こんな雰囲気の中で自己紹介が始まるの?



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