第55話 3人の視点

§パーシヴァル視点§

 高等科学園で入学式が行われた。私は生徒会長として式に出席したことで、初めて辺境伯令嬢リディアーヌを目の当たりにして『天使が降臨』したのかと思った。


(本当にこの世の者とは思えないな……)


 エリアスから辺境伯令嬢のことを聞いた時は半信半疑だったが、この目で実際に彼女を見て、言葉のとおりだと理解した。


 そして、式が終了すると愚弟ガウェインが、辺境伯令嬢に対してとんでもない失言をした。その失言は、辺境伯夫妻の逆鱗に触れて命を奪われそうになった。ひどい言葉を浴びせられたのにも関わらず、彼女は愚弟に慈悲を与え救ってくれたのだ。エリアスが言う通り辺境伯令嬢は『マジ天使』と思った。ステファニーには本当に申し訳ないが、可能であれば彼女を妻に娶りたいと思った。


 リディアーヌ嬢、必ず君を振り向かせてみせるからね。

 

§フランチェスコ視点§

 入学式でリディアーヌ嬢が腕を組みながら入場してきた。


(アイツが婚約者のファビオか……)


 祖父からは4つの属性を扱え、全ての適性値が9という桁違いの天才と聞いている。容姿の方もなかなかのもので、相手にとって不足なしといったところだな。


 式が終わって教室へ移動する時、ファーガソン王国第2王子がリディアーヌ嬢を誹謗中傷するという失態を犯すと、怒った辺境伯が威圧だけで命を奪おうとしたその時、リディアーヌ嬢がその行為を止めた。


「愛する子供が目の前で苦しむ姿を想像してみて? パパとママは耐えれるの?」

「「!?」」

「私は、目の前でママの苦しむ姿なんて、絶対に耐えることができないよ。お願いだから、そんな残酷なことは止めて!」


 凛とした態度と、蔑む態度をとった相手に慈悲を与える言葉を聞いて、思わず身震いがした。


 聖教国では毎日祈りを捧げてきたが、未だに神の遣いが降臨することも、神託を授かったこともなかった。だが、目の前で天使が降臨していたのだ。


 やはり、リディアーヌ嬢はヴァレンティ聖教国にこそ相応しい。必ず目の前の天使を祖国へ連れて帰ることが、私の天命だと理解したのだ。


§キリアム視点§

 暇な日常から刺激を求めて、ローソン帝国が庇護しているファーガソン王国への留学を決意した。


 皇位継承順位は4位の第3皇子とはいえ厳しい教育を受けてきたので、余裕で首席入学をするのだろうと思っていた。それが俺より上に3人もいて、しかもその中には女がいたらしい。きっとゴリラのようなヤツだろうと思い、教室へ移動する時に顔を拝んでやろうと思ったら事件が起こった。


 第2王子が2位だった令嬢を侮辱すると、令嬢の父が激怒して威圧で第2王子を殺そうとした時に、女の声があがった。


「パパ、ダメ!」


 俺は声の主に目を向けると、その輝くような美しさに心を奪われた。その後も侮辱した相手を許して、容姿だけではなく心も美しいことが判った。


 この天使のような令嬢を将来の妻として娶る。これほど面白いことはないだろうと歓喜したのだった。

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