第54話 国王の決断

§ファーガソン王視点§

 ガウェインが入学式の場において、高等科学園とリディアーヌ嬢に対して暴言を放った。


 不味い……、高等科学園への暴言はまだしも、リディアーヌ嬢への暴言だけは非常に不味いのだ。儂の背中は冷や汗で『ビッショリ』となっていた。隣の王妃が私の手を強く握りしめてきたということは、儂と同じように冷や汗を掻いているのだろう。


(あの馬鹿、儂の隣には辺境伯夫妻が居るのだぞ……)


「ねぇ、あのゴミは貴女の愚息なの?」


 辺境伯夫人が、王妃に冷たい口調で語りかけると『はい』とは言えずに、返答に困っていると周囲が冷気に包まれる。


「ひっ……、ア、アルテイシア?」

「あっ? 私は質問してるのよ? 聞かれたことに応えれば良いのよ」

「はい……、第2王子のガウェインです」


『ピキンッ』


 王妃が返事をした瞬間、周囲が冷気が漂うと同時に凍てついた。そのことに気づくと王妃は恐怖のあまりに声を漏らす。


「ひっ……」

「前に城で話した『次はない』の言葉を忘れているのかしら? ミゲール、あの程度のゴミなら威圧で殺せるんじゃない?」

「あぁ、問題ない」


 夫人の言葉を聞いたミゲールは『スッ』と席を立つと、ガウェインに向けて威圧を放とうとした。何とか止めようと思い、ミゲールの前に立ち必死に声を掛ける。


「なっ、ミ、ミゲール! 待ってくれ!」


 完全にキレているミゲールは、私の声など完全に無視をして、ガウェインに向けて威圧を飛ばした。その瞬間『バタン』と白目を剥いてガウェインがその場に崩れた。


 その様子を見た王妃は思わず悲鳴をあげて、その場に泣き崩れてしまう。


「あぁ~、ガウェイン!」


 白目を剥いて『ガクガク』と震えるガウェイン、このまま逝ってしまうのかと思ったそんな時、前回と同じようにリディアーヌ嬢がミゲールに対して声をかけた。


「パパ、ダメ!」

「リディ!」

「愛する子供が目の前で苦しむ姿を想像してみて? パパとママは耐えれるの?」

「「!?」」

「私は、目の前でママの苦しむ姿なんて、絶対に耐えることができないよ。お願いだからそんな残酷なことは止めて!」

「ミゲール、私達の天使の願いは絶対よ。こんなゴミにも慈悲を与えるなんて、本当に天使なのかしら? いえ、もはやそれ以上の女神なのかしら!」

「あぁ、私のリディは天使でもあり女神でもあるのか!」


 リディアーヌ嬢の慈悲深い言葉で、辺境伯夫妻の怒りは鎮まり席に着いてくれた。学園関係者が慌てて駆け付け、ガウェインの容態を確認すると、命に別状はなかった。そのことを確認すると、リディアーヌ嬢は安心した表情を浮かべて教室へと移動した。儂と王妃は無事を喜び辺境伯夫妻に改めて謝罪をしてから、ガウェインに対してある決断を下すことを伝えたのだ。


「ミゲール、命を奪わずに済ませてくれたことを感謝する。ガウェインの王位継承権を剥奪するので許して欲しい」

「当然の内容だ。あのゴミが王になればレイバック辺境伯家はファーガソン王国から離脱すると思え」

「ミゲール、そんなヤツは放っておいて教室へ向かうわよ」


 リディアーヌ嬢が移動したことにより、夫人はこの場に興味はないようで、ミゲールを連れて教室へと移動した。


 リディアーヌ嬢を王家に迎えたい。パーシヴァルに王家の命運の全てを託して、王家と辺境伯家が固い絆で結ばれることを切に望むのだった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る