第53話 天使は愚か者を許す

 叔母様が反論すると、ガウェイン殿下はさらにヒートアップして声を荒げる。


「王家を舐めるなよ! 娘が無能だから養子を取った辺境伯家など、その気になればいつでも潰せるんだぞ!」


 あぁ、ガウェイン殿下は越えてはいけないラインを越えてしまった。そう思った瞬間、ガウェイン殿下が白目を剥いて突然倒れてしまった。キレたお父様が殺気を含ませた威圧を放ったことで、プレッシャーに耐えれずに呼吸ができなくなったのだ。このままではガウェイン殿下が死んでしまうと思い、お父様に威圧を解くように声を掛ける。


「パパ、ダメ!」

「リディ!」

「愛する子供が目の前で苦しむ姿を想像してみて? パパとママは耐えれるの?」

「「!?」」

「私は、目の前でママの苦しむ姿なんて、絶対に耐えることができないよ。お願いだから、そんな残酷なことは止めて!」


 ハッキリ言えば、ガウェイン殿下の生死はどうでも良かった。ただ、ここで王家に対して恩を売っておけば、ファビオの将来に必ず役立つと思ったの。私の声を聞いたお母様は、お父様の方に手を当て声をかける。


「ミゲール、私達の天使の願いは絶対よ。こんなゴミにも慈悲を与えるなんて、本当に天使なのかしら? いえ、もはやそれ以上の女神なのかしら!」

「おぉ、私のリディは天使でもあり女神でもあるのか!」


 かなり大袈裟なことを言っているけど、ガウェイン殿下への威圧は止まった。学園関係者が容態を確認すると、命に別状はなかった。私は叔母様に頷くと、Sクラスの教室へと移動した。


 教室に着くと、直ぐにホームルームが始まる。叔母様が『席は自由で構わない』と言ったので、前列の中央に私とファビオが座ると、すぐに両サイドと後ろをサンドラ達が座って身内で固まる形となり、残った3人は必然的に机を並べることになった。


 これまで身内以外との交流がなかったし、両親からも外部との交流は必要ないと言われたので、特に気にすることはなかった。ただ3人からの視線を感じたのは、お母様の拘りが詰め込まれた制服のせいだと思う。きっと私が我儘を言って作らせた制服だと思い、冷ややかな視線を送っているのだろう。


「明日から始まる授業だが、武術と戦術はこの私が担当だ。魔術はアルバロン.レイエスが、学術はファルカオ.ソクラテスが担当する。いずれも私の天使、いやレイバック辺境伯令嬢のレベルに合わせた授業をするので、付いて来れるように努力するように」

「「はい」」


 叔母様! なに訳の判らないこと言ってるのよ! サンドラ達も普通に返事をしてるけど、私なんかのレベルに合わせてたら、来年は全員が下のクラスに落ちちゃうじゃない!


「では、今日はここまでにする。明日は他の教師を交えた自己紹介をするからな!」

「「はい、ありがとうございました」」


 ホームルームが呆気ないほど簡単に終わると、お父様が駆け寄ってくると『ギュッ』と抱きしめられた。流石に教室内で周りの目があるので恥ずかしいので、必死に抵抗するけど逃げれる訳もなく醜態を晒すしかなかったの。


「リディ、パパの天使! あんなゴミを許す慈悲の女神!」

「パパ、ここは教室だからね? 周りの迷惑になっちゃうよ?」

「ミゲール! なにを抜けがけしているのかしら? それにそんなに強く抱きしめたら制服にシワが付くじゃないの!」


 お母様に注意されると、残念そうな表情をしながら手を離す。その後はお母様に優しく抱きしめられてしまい、結局は両親に溺愛されている姿を晒すことになったの……。


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