第48話 領地視察

 両思いだと判ったあの日から、ファビオのことを意識し過ぎてしまうようになり、目が合うだけで顔が熱くなってしまう。周り者もそのことに気づいて、お母様からは『初々しいリディも尊いわね』だの、サンドラからは『姫様の反応が可愛過ぎて尊いです』なんて冷やかされている。


 それでも、時間が経過するにつれ慣れてくるもので、徐々に過剰な反応が解消されていって、今では普通に接することができるようになった。そのおかげで、以前よりも親密に接する事ができるようになった。この調子なら高等科学園へ通う頃には、ファビオの婚約者として恥ずかしくない振る舞いができると、自分に期待しているの。


 そんなある日、私は領地にある農耕地帯の視察に同行することになり、お父様とファビオの後に続いていたけど、両親がいつも腕を組みながら歩いていることを思い出して、ファビオの隣へ並んで腕を組むことにした。


『スッ』


 私がファビオの隣に並んで腕組むと、『ビクッ』と驚くような反応してから、こちらへ顔を向けてきた。


「リディ?」

「ふふっ、私達は婚約してるんだよ。これくらいは良いでしょ?」

「あっ、うん、そうだね」


 少し頬を赤くしながらも『うん』と言ってくれたので、私が笑顔を見せながら身をさらに寄せると、ファビオの背筋が『ピン』と伸びて、急に歩き方がギコチなくなっていた。


『『プッ』』

「むっ……」


 後ろに控えていた護衛の4人が吹き出して笑うと、ファビオは4人を睨む。動きが急に変になったことに気づいて、思わず笑ってしまったのだと思う。だけど、今は領地の視察中なので、気を引き締めてもらう為に5人に声をかけておく。


「冷やかしちゃダメだよ? ファビオも『ドン』と構えれるようになってね?」

「「か、かしこまりました」」

「努力するよ」

 

 まだギコチない感じだったけど、この日の視察中は、ずっとファビオと腕を組みながら領地を回ったの。


§農耕地責任者の視点§

 領主様が農耕地帯へ視察に来られた。年に1回行われる視察なのだが、今回は姫様が視察に来られると通達があったので、領民達が姫様を一目見ようとして、視察する農場には人が溢れかえっていた。幼少の頃は領民には興味を持たない『我儘姫』なんて噂や、『病弱』で外出もままならないという噂が流れていたので、興味を持った領民達が盛り上がらないわけがなかった。


 そして領主様の馬車が着くと、全員の視線が集まるなか姫様が馬車から降りてくると『ワァーッ!』と歓声が沸き起こった。


 奥方様も大変美しく、あれ以上の美しさはあり得ないと思っていたが、姫様の美しさは言葉で言い表すことが不可能なほどに美しかった。若様と仲睦まじく腕を組む姿に、集まった者は皆目を細めて見守るのだった。


 視察を終えて戻られても『姫様フィーバー』は続いて、姫様の名前を用いた新たな品種の開発に取り組むことになったのだった。


※のちに『リディアーヌブランド』として様々な品種が開発され、ファーガソン王国に出回り世間を賑わすのはもう少し先のことである。


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