第45話 我儘を通す
私が謁見の間に入って両親に声をかけてから周囲を見渡すと、腕を失った男性が真っ青な表情で、今にも倒れそうになっていた。
床に落ちている腕には剣が握られていたので、男性が両親に剣を向けたことで斬り落とされたのだと理解した。このままでは大量の出血により命を失いかけないので、お母様に治療するように頼むの。
「大丈夫ですか? ママ、この方を治療してあげて欲しいの」
「その男は私達に剣を向けたのよ?」
「ママ、お願い……、せめて止血だけでも良いから」
「うっ……、判ったわ。止血だけよ」
「うん、ありがとう」
私が必死に訴えかけると、お母様は渋々ながら止血を施してくれた。
「止血はしたわ。でも、これ以上の治癒はリディの頼みでも無理よ。コイツはパパとママに剣を向けたのだから、その時点で命はないのよ」
「うん、本当にありがとう」
私はお母様に感謝を伝えてから、初めて会う国王に視線を向けて一礼をする。ここからは国の為ではなく、ファビオとレイバック辺境伯家の為の行動を取る。
「初めまして、レイバック辺境伯家の長女リディアーヌです。今回の事態を招いたのは、王家の甘い認識だと思います。王家と辺境伯家の盟約について、改めて周知徹底を行ってください。私は王家と辺境伯家が争うことを望みません」
「「リディ!」」
私の言葉を聞いた両親が驚きながら声をあげたので、両手を胸に当てて懇願するように話しかける。日頃から言われている『天使』のイメージで頼めば、恐らく我儘が通るはずだと見込んだから。
「パパのママが怒ってるのは、盟約を破ったことではないよね? 私が怖い思いをしたことで怒ってるんだよね? そのことで王家と争うことになって、大切な領民を巻き込みたくないの。どうか私の我儘を許して欲しいの」
「こんな馬鹿達にも慈悲の心を……、リディのママであることを誇りに思うわ!」
「ガラハット、リディに感謝しろ! 今回だけは不問にしてやるが、次はないということを覚えとけ」
「あっ、あぁ、判った。盟約のことは家臣達に周知徹底すると誓う」
お父様の言葉を聞いた国王は、『ホッ』と安心した表情をしてから、何回も大きく頷きながら返事をする様が少し滑稽に見えた。
(国王の威厳を全く感じないんだけど……)
「辺境伯令嬢、そなたの慈悲深き対応に感謝をする。もし望むのなら、そなたを未来の王妃として迎えたいと思うのだがどうだろか?」
「はっ? ミゲール、ふざけたことを言った馬鹿を殺して!」
「そうだな。コイツに生きる価値はない」
国王が感謝を口にした後に、私を王妃として迎えたいなんて言っことで、お母様はブチ切れてしまう。
「パパママ待って! 陛下、私には愛する婚約者が居ますし、私のような者では国母は務まりません。なので王妃の件はお断りします」
「そ、そうか……」
「先ほど父が言いましたが、次はないと思って臣下の統制をお願いします」
「判った。ファーガソン王国 国王ガラハットの名にかけて約束する」
国王が名にかけて約束してくれたので、これで王家と辺境伯家が揉めることは回避できたと思い安堵した。これで心置きなく帰ることができると思い、お父様に甘えるように声をかける。
「パパ、用事も済んだし領地へ帰ろうよ」
「そうだね。こんな所に居るとリディが穢れてしまう。早く領地へ帰ろう」
そう言って両親の手をとって手を繋ぐと、2人は上機嫌になり王城から別邸へと戻ったの。そして翌日には、レイバック辺境伯領へと帰領して、日常の生活へと戻ったのだった。
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