第44話 2人の姫

§第1王女エリアス視点§

 レイバック辺境伯夫妻が登城したようで、城内が騒がしくなっていた。私は王国一の美貌と言われるアルテイシア夫人のことを、一目見ようと謁見の間の周辺を歩いていたそんな時、近衛兵の大きな声が聞こえてきた。


「レイバック師団長、謁見の間に通すことはできません。お下がりください!」

「通せ! 私はリディを連れて行かなねばならんのだ!」


 そこには私が最も憧れる宮廷騎士団第二師団長のアンジェラ様と、その傍らに1人の少女を連れていた。その『リディ』と呼ばれる少女に目を向けると、あまりもの美しさに衝撃を受けた。


(なんて、神々しい美しさなの……)


 美しい少女に見惚れながらも、謁見の間という言葉が脳裏をよぎると、アンジェラ様と一緒に居る少女が辺境伯令嬢のリディアーヌだと理解した。


 先日、お父様の使いの者が辺境伯夫人と令嬢に無礼を働いたと聞いたことを思い出した。アンジェラ様は謁見の間へ令嬢を連れて行こうとしているのだ。普通に考えれば、2人が抗議の場に参加しようとしてるのだから、近衛兵が静止するのは当然だと思った。


「近衛兵さん、私は王家と争うことを望みません。私の弱さが両親を怒らせてしまいました。私は揉め事を収拾したいのです。ファーガソン王国の平和の為にも、どうか私を通して下さい」


 令嬢は、揉めていると思われる王家と辺境伯家の話し合いの場を、治める為に来たとのだと言ったの。脅しをかけるような無礼をした王家を咎めるのではなく、事態を収拾すると言ったのだった。


(この方は慈愛の女神なの?)


 令嬢の言葉を聞いても、近衛兵は謁見の間へ向かうことを認めようとはしない。そんな状況を見かねた私は、近衛兵に対して命令を下す。


「第1王女エリアスが命じます。その2人を通しなさい!」

「エリアス王女殿下! しかし……、かしこまりました」

「あの、エリアス王女殿下、感謝します」

「王女殿下、誠にありがとうございます」


 私が謁見の間へ通すように伝えると、2人はこちらへ一礼をした後に感謝を口にしたので、笑顔で頷くと急いで先へと進んだのだった。


 どこの誰が辺境伯令嬢のことを『無能な我儘娘』なんて言ったのかしら? 平和を愛し慈愛に満ちた天使のような方じゃないの。お父様が『辺境伯令嬢と婚姻する者を次期国王にする』と言った理由が今なら判る。それと同時に、私が女であることを悔やんでしまった。あんな素敵な方と結ばれたかったけど、同性の私ではどうにもならないから、義姉妹なることで我慢しようと思った。


(兄様達、私の為に頑張ってね)


※王国だ領民だと言っているけど、リディアーヌの行動の全てはファビオの為だということを知る者は居ないのだが、エリアスが噂を広めたことで『レイバック辺境伯の至宝』『慈愛の女神』と王都の令嬢達の間で高く評価されていくのだった。



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