第37話 母と叔母は密かに観戦する

§アンジェラ視点§

 リディを見送ると、義姉上が『にこっ』と笑顔を見せながら頼み事をしてきた。


「アンジー、あなたなら入学試験の様子を見ることができるのでしょう? リディの勇姿を見せてくれるわよね?」

「確かに武術試験なら、騎士候補を探すという名目で可能だと思います。直ぐに可能か確認をしてします」

「ありがとう。期待してるわよ! 見学ができれば昨日の失態を許すわね」


 義姉上は兄上よりも遥かに怖い……、そんな義姉上の頼みでもあるが、リディの勇姿を見てみたいと思うのは私は同じなので、学園の関係者に交渉をすると、学園の関係者席で見学することを許された。


 試験の内容は私から見れば『お遊戯』程度にしか見えない。退屈な時間を過ごしていると、ようやくリディの出番がやってきたが、対戦相手を見て驚いた。


「あれはメルク嬢か!」

「あら、知り合いなの?」

「あぁ、今回の受験者の中でも上位に入る実力者だよ」

「そう、それは楽しみね!ふふっ」


 義姉上に相手が強いと伝えても、全く意に介さず模擬戦の開始を楽しそうに待っていた。あの『ふわっ』とした天使であるリディが、勇ましく戦う姿なんて全く想像できずに不安になったのだか……


「信じられない……」


 模擬戦が始まると私の口からは、その言葉以外は出なかった。剣と盾を使う相手に剣のみで戦うのは圧倒的に不利なのだ。それがリディは圧倒してしまったのだった。


「義姉上? あれはいったい……」

「ふふっ、リディに剣術指導してるのはミゲールなのよ。10歳からしっかりと鍛えられたのだから、ファビオ以外にまともに打ち合える者なんていないわよ」


 兄上が剣術を指導しているとは……、それにしてもあの立ち回り、どれだけ厳しい指導を受けていたのだと思った。


「兄上は鬼なのか?」

「あら、ミゲールはリディに傷が付くような指導をするわけないじゃない。傷なんてつければ私が許さないわ。リディは単純に教えたこと以上に成長をする天才なのよ」

「リディは兄様と同じ武の天才なのか?」

「いいえ、魔術も天才なのよ。本当に私の天使は全てにおいて完璧なのよ」


 模擬戦を終えて席に戻るリディを眺める義姉上は、恍惚とした表情をしていた。確かにリディは全てを兼ね備えた天使で、模擬戦を見ていた私も心を奪われていた。


(あぁ、あの天使と触れ合いたい……)


 宮廷騎士団を辞めた後は、辺境伯領へ帰ろうと思っていたけが、私は帰らずにやりたいと思える仕事を思いついた。


 そう、私は高等科学園の武術教師となりリディを指導することだ。そうすれば思う存分に触れ合うことできると、夢のような時間が脳裏に浮かんだのだった。


※高等科学園に入学してからも、過保護な叔母により溺愛されるなんてことを、リディアーヌは思ってもいなかった……。

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