第33話 リディの勇気

『ズバッ』という斬撃音とともにメフィストの右肘から先が宙を舞った。


『ボトッ』

「……、ぎゃあああー!」


 メフィストは失った右肘に手を当てながら、激痛のあまりに叫び声をあげる。


「リディに剣を向けたんだ。その時点でお前は万死に値する。死ね!」

 

 私に見せたことのない険しい表情をしたファビオが、剣を抜いてメフィストの腕を斬り落としたのだ。そして『万死に値する』と言ったあと、両手で剣を振り上げる。このままメフィストの命を奪うのではないかと思い、私は声を震わせながら声を上げてファビオを止める。


「ダメ!私とママは大丈夫だから」

「っ、リディがそう言うのなら」


 ファビオはそう言うと、剣を鞘に戻してメフィストを睨みつけながら私の後ろへと下がると、お母様が聞いたことないような怒り声でメフィストに声をかけた。


「お前は王の使いと言ったわね? その行動は王家の行動となるのは判ってるわね? レイバック辺境伯家は王家に対して抗議をすると、王に伝えなさい!」

「ぐっ……貴様、国王陛下に対してそのような態度を……、許されると思うなよ」

「私の天使に手を向けて、ミゲールが王家を許すとでも思ってるの? どうなるか覚悟しておくことね。それより転がってる腕を早く持って帰らないと、二度と元には戻らないわよ?」

「くそっ、覚えてろ!」

「忘れないわよ。お前も含めてキッチリと責任を取ってもらうから覚悟しなさい」


 メフィストは捨て台詞を放つと、地面落ちてる腕を拾って王城へと戻っていった。


§アルテイシア視点§

「ママッ!」


 メフィストが去っていくと、リディが抱き着いてきたけど、その手は『ブルブル』と震えているのが伝わってきた。相当な恐怖の中で私を庇うために前に立ったのかと思うと、涙が溢れ出した……。


「リディ……、怖い思いをさせてごめんね」

「ううん、ママが無事で良かった……」


 私に触れる手には、未だに恐怖が残っていて震えていて、涙声で話しかけるリディを強く抱きかえした。そして、この事態を招いた王家に対して、激しい怒りが込み上げてきたのだった。


「さぁ、帰ってゆっくりと休みましょう」

「う、うん」


 リディに寄り添いながら別邸へ戻ると、直ぐに寝室へ向かいベッドで横にして休ませる。


 私は横になるリディの手を握りながら、寝付いたタイミングで執事を呼んだ。ミゲールへの緊急連絡と、義妹アンジェラを別邸へ呼ぶように指示を出す。


「ミゲールに、リディが怖い思いをしたことをしっかりと伝えなさい。そして、毅然とした対応をするように伝えるのよ。アンジェラには、お前がリディの護衛に来なかったことが、今回の事態事態に繋がったと厳しく伝えるように」

「かしこまりました」

「もし王家の者が謝罪をしに訪ねてきても、話を聞く気になれないから追い返すように」

「かしこまりました」


 指示を出し終えると、ベッドに入って『スヤスヤ』と眠るリディを優しく抱きしめながら添い寝をしたの。

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