第32話 国王からの使者

 ちょっとしたトラブルがあったので、少し急ぎながら移動していた。


 気持ちに焦りがあると、単純な計算ミスをするかも知れないので、気持ちを落ち着かせようと思い隣を歩くファビオの手を握ったの。


「!? リディどうしたの?」


 何も言わずに手を握ったので、ファビオは顔が赤くなり驚きながら声をかけてきた。


「あっ、ちょっと気持ちを落ち着かせたくて、驚かせてごめんね」

「ううん、大丈夫だよ。リディの役に立てるのなら嬉しい限りだよ」


 驚かせたことを謝ると、『大丈夫』と言ってからしっかりと握り返してくれたので、私は落ち着きを取り戻せたの。


 数学の試験は日頃の勉強と比べると非常に簡単なもので、ファビオなら余裕で満点を取れるだろうと思った。


 そんな感じで初日の学力試験を終えると、武術と魔術の試験さえなければ、Sクラスで合格できるかも知れないと思ったの。


「学力試験お疲れ様、まだ2日あるから気を抜かずに頑張ろうね!」

「うん」

「「はい!」」


 試験が終わって、学園の校門前にお母様が迎えに来ていたのが見えたので、駆け寄り抱き着いてからお礼のキスをする。


「ただいま!」

「おかえり、試験はできたのかしら?」

「うん、大丈夫だと思うよ」


 お母様に試験の感想を伝えていると、1人の男が私達の会話に割り込んできたの。


「失礼、レイバック辺境伯夫人とご令嬢で間違いはありませんか?」

「そうよ、私の天使との会話を遮ったあなたはどちら様かしら?」


 私との会話を遮られたことで、お母様の機嫌はかなり悪いみたい。ただ、男はそんなことを気にする素振りも見せずに、淡々とした口調で用件を伝えたの。


「私は国王の命を伝えに来ました。入学試験が終わり領地へ戻る前に、必ず登城するようにとのことです。では失礼する」


 男が用件を一方的に伝え終えると、軽く頭を下げてから去って行こうとしたので、お母様は呼び止めた。その様子からかなり怒っていることが判った。


「待ちなさい! 登城はしません。レイバック辺境伯家の者に登城を望むのならば、正式な手続きをするように王へ伝えなさい」

「なに? 国王の命令に従わないだと?」


 お母様が登城しないと返事をすると、男の雰囲気が一変する。自身にとって絶対的な存在である国王の命令に、目の前の女が従わないと言ったことに怒りを覚え、そのまま殺気をお母様へ向けたのだ。


 私はお母様の前に立って、殺気を向ける男に声をかけたの。


「私のママになにをするの?」

「我が王に従わない者には、それ相応の罰を与えるのは当然だ。このメフィスト.マットネスは甘くはないぞ?」

「!?」


 メフィストは殺気を放ったまま返事をしたので、私は恐怖のあまり声も出せず身が固まった。その様子を見たメフィストは、薄ら笑いを浮かべながら口を開いた。


「何がママだ。無能な我儘娘が、我が姫と比べれば天と地ほどの差があるな。どかないのなら母より先に罰を与えてやるぞ」


 メフィストが私へ剣先を向けたた瞬間、『ズバッ!』という斬撃音が鳴り響いたのだった。


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