第31話 慈悲の女神
周りのみんな怒っているけど、私としては厳しい責任追及を求めつもりはないので、ファビオへ穏便に済ませて欲しいと声をかける。
「ファビオ、クロスビー伯爵令息は私のことを知らなかったし、私も彼のことを知らなかったわ。家紋を確認すれば判ったかも知れないけど、私達は未熟者だからこそ高等科学園に学ぼうとしてるの。ことを大袈裟にせずに穏便に済ませくれない?」
「リディ!」
「お願い。クロスビー伯爵令息もこれを機に、立派な貴族令息として成長されると思うの。ここは私に免じて穏便にね?」
そう言ってから頭を下げた。
「リディ……、君はなんて慈悲深いんだ。判ったから頭を上げて欲しい」
過去に許された経験のある4人の護衛は、昔を思い出したのか右手を胸に当て声を揃えた。サンドラに至っては涙を浮かべて『ポツリ』と呟いた。
「「我が姫は本当にお優しい」」
「姫様こそが慈愛の女神様……」
私の想像の斜め上に反応に少し戸惑ってしまったていると、ファビオは私に笑みを見せてから、クロスビー伯爵令息達に向けて口を開いた。
「クロスビー伯爵令息! リディの慈悲に感謝をして、同じ過ちを繰り返さないように気をつけろ。次はないからな!」
「はい!リディアーヌお嬢様のご慈悲に感謝します。誠に申し訳ありませんでした」
ファビオの言葉を聞いたグラントは、大粒の涙を流しながら感謝を口にしたが、私の名を呼んだことに対してアンドレアスが注意する。
「おい、姫様は名で呼ぶことを認めていないのだぞ? その辺りの常識もしっかりと身に着けろよ?」
「あっ……、申し訳ありませんでした」
「アンディ、意地悪なことを言わないのよ? あなたも同じことで注意されたことを忘れたのかしら?」
「いや……、はい……」
私がアンドレアスに笑いながら注意すると、額を『ポリポリ』とかいて視線を逸らしたのだった。
「このことはこれでお終いね。さぁ、午後の試験に向かわないと遅れるわよ。クロスビー伯爵令息も試験頑張ってくださいね」
「はい、ありがとうございました」
ちょっとしたトラブルの後は、少し早足で試験会場に向かい数学の試験に臨んだのだった。
§グラント視点§
食事を終えて試験会場に向かおうとすると、同じ受験生と思われる一団の中に際立つ容姿の女子が居たので、思わず声をかけた。
普通に考えれば、食事室を与えられるのだから伯爵家以上だと判るのに、彼女に声をかけたいという衝動で、家紋を確認せずに声をかけたのが間違いだった。なんと相手は王家に次ぐ辺境伯家のご令嬢だった。
傍に居る者から警告を受けて、辺境伯家から直々に抗議をすると言われ、全身から血の気が引くのが判った。辺境伯家が相手だと、伯爵家から廃嫡処分となり平民落ちする。そんなことが脳裏をよぎっていると、彼女は穏便に済ませるように周りを説得したのだ。その表情は穏やかにで慈悲の女神のようだった。
俺は赦してくれた辺境伯令嬢に誓う。彼女の為に立派な男になり、もし困ったことがあるようならば、この命を差し出してでも絶対に守ってみせる。
※この令息は後にリディアーヌの騎士となり【鋼鉄のグラント】呼ばれるのだった。
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