第30話 ちょっとしたトラブル

 いよいよ入学試験の日を迎えた。


 初日は学術の試験で、私達は会場に入って席に着き試験が始まるのを待った。


 午前の語学試験は母国語ではなく、世界の共通宗教であるブリアント教の言語である聖教語の試験だった。聖教語については、お母様がヴァレンティ聖教国出身なので、生まれた頃より聞き慣れた言葉だから

、非常に簡単な試験だったの。


 午前の語学試験が終わったところで昼休憩となり、私達は辺境伯家に与えられた個室へと移動して、昼食を取りながら語学試験の話をしたの。


「お疲れ様、聖教語は私にとっては生活の一部だから簡単だったけど、みんなはどんな感じだったのかしら?」

「お義母様の授業は聖教語だったからね、僕は全く問題なかったよ」

「決して簡単ではありませんでしたが、8割以上は答えられたと思います」

「「我々も同じです」」


 ファビオは私と同じで余裕だったみたい、サンドラが8割程度だと応えると、4人は頷きながら同じだと言っていた。例年の平均点は6割程度らしいので、みんなも平均以上みたいで安心した。


「それは良かったわ。午後からの数学も頑張ろうね!」

「うん」

「「かしこまりました」」


 食事を終えて個室を後にして試験会場へ向かおうとすると、同じく個室から出てきた受験生から声をかけられた。


「個室を与えられているということは、君達も上位貴族のなのか?」

「誰に向かって口を聞いている? 部屋の家紋を見れば判るだろう。貴様如きが気安く話しかけて良い相手ではないのだぞ」


 チェイスが私の前に出て、話しかけてきた受験生に怒った感じで返事をすると、後ろに控えていた男子が威勢よく出てきた。


「貴様、このお方はクロスビー伯爵家のグラント様だぞ! 口の聞き方に気をつけろよ?」


 私に声をかけてきたのは伯爵家の令息だったようだ。家の格のことを言われたけど、格なら辺境伯家の方が断然上なので、話しかける前に家紋の確認をして欲しいと思った。


「まぁ、僕が伯爵家の者とは知らなかったのだろう。試験の後に、僕と食事をすることで許してあげるよ」


 グラントはそう言ってから、私に触れようと手を伸ばした瞬間、ファビオが手首を掴んで捻り上げた。


「いっ……、何をする!」

「僕はファビオ.レイバックだ。お前が触れようとしたのは、リディアーヌ.レイバック辺境伯令嬢だぞ? お前の言葉は僕を含めてこの場に居る全員が聞いた。レイバック辺境伯家から正式に抗議があると思え」


 ファビオの言葉にグラント達の顔は青ざめた。ファーガソン王国では王家に次ぐ地位の私にとった態度は、普通なら許されないもので、何らかの処罰が下されるはずだからだ。


 私はあまり騒ぎを大きくしたくなかったので、穏便に済ませるように、ファビオに声をかけることにしたの。


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