閑話 僕の存在意義

§ファビオ視点§

 僕の義姉リディは紛れもなく天才だ。ただ本人はそのことに全く気づいていないようで、逆に僕のことを天才だと思いこんでいるようだ。そんなリディの期待に応える為に、必死に努力を続けている。


(はぁ……、レイバック辺境伯家の後継者に相応しいのは、絶対にリディだよ)


 レイバック辺境伯家へ養子に来て、リディと一緒に学ぶんでいると、僕の存在意義に疑問を感じるようになった。


(僕はレイバック辺境伯家から去るべきではないだろうか?)


 そんなことを思い悩んでいると、リディは僕の異変に気づいて、心配そうに声をかけてきた。本当に優しい義姉で我儘娘なんて言った奴に文句を言ってやりたい。


「ファビオ、何か悩みごとがあるの? 私では頼りないかも知れないけど、溜め込むのは良くないと思うの。だから、悩みがあるなら言って欲しいの」


 お義母様がいつも口にしているけど、本当に天使のように尊すぎる。『ふわっ』とした雰囲気のなか笑顔で話しかけられると、どんなことでも打ち明けてしまう。


「実は、僕よりもリディの方が後継者に相応しいと思ってるんだ。だから僕はレイバック辺境伯家から去るべきじゃないかと思ってるだ……、だって」


 僕が悩みを打ち明けていると、目の前のリディの瞳から涙が流れ出した。僕は驚きのあまり話しを中断して理由を聞いた。


「リ、リディ? どうしたの?」

「馬鹿なことを言わないでよ……、ファビオ以外に後継者に相応しい者なんて居ないわ。私が一緒に勉強してるのは、独りで頑張るのは大変だと思ったからなの。決して後継者になろうなんて思ってないの。私のせいで不安にさせてごめんなさい」


 リディは、僕を不安にさせたこと悔やんで泣いていたのだった。どうして僕のことを、そこまで思ってくれているのだろう? 


「不安なんかじゃないんだ。素直に僕よりもリディが後継者に相応しいと思う。家族として迎えてもらって、幸せな時間を過ごせたからこそ、僕が去った方が良いと思っただけだよ」

「ファビオの気持ちを聞かせて欲しいの。このままレイバック辺境伯家の当主になる未来は、あなたにとって不幸なの?」

「お義父様やお義母様と暮らせる未来は、きっと幸せだと思う。その中にリディが居れば言うことはないよ」

「私が?」


 思わず口が滑って、心の中にある願望を言ってしまった。リディに出逢った日から僕の心は奪われていて、彼女と歩む未来があれば良いなと思い続けていたからだ。


「あっ、いや、その、今のは!」


 俺は慌てて何か言おうとするも、頭が真っ白になって言葉が出てこなかった……。そんな慌てる僕のことを『クスクス』と笑いながら、思わぬ言葉を耳にした。


「もし、ファビオが望むのなら、私で良ければずっと一緒に居るわよ。でも、これから素敵な人と出逢う機会があるでしょ?  それでも気持が変わらなかった時は、私を貰ってね」

「あっ……、うん」


 自分の存在意義に疑問を感じていたけど、リディの言葉を聞いた瞬間、もっと努力をして必ずレイバック辺境伯家の後継者になる。そして『リディを伴侶として迎えるんだ』と心に決めた。


 それこそが、僕の存在意義なんだ。

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