第15話 才能が花開く②

 巻き戻り前と違って、私は王都や領地にある初等科学園へ通わずに、城内でファビオと一緒に学ぶ日々を送っている。


 全く努力をせずに過ごしていた時と違って、本当に毎日が充実しているの。後継者教育で、忙しい毎日を過ごすファビオに寄り添い、無能ながらも遅れを取らないように努力を続けたわ。


 レイバック辺境伯家の補佐官は本当に優秀で、政治経済・語学・数学を無能な私にでも理解できるように教えてくれる。


「リディアーヌお嬢様の物覚えの良さには驚きます。この調子なら高等科学園の入学試験で、ファビオ様と首席を競われことになりますよ」

「ふふっ、ありがとう」


 上司の娘だから褒めちぎってくれるけど、ファビオと競えるほどの能力があるはずがないの。私は無能で我儘だったからこそ、お父様は優秀な養子を迎えた訳だからね。真に受けないで適当に流しておく。


「リディ、高等科学園のクラス分けは成績順だから、2人で同じSクラスになろうね」


 巻き戻り前はDクラスだった私には、かなり高いハードルなんだよね。それでもファビオの為にもっと頑張ろうと思ったので、笑顔をみせて応える。


「うん、ギリギリでもSクラスに入れるように頑張るね」

「うん、リディなら絶対に大丈夫だよ」


 あまり一緒に居ると、ファビオのパートナー探しの邪魔になりそうだけど、希望は叶えてあげたいので頑張ってみる。


§補佐官ケント視点§

 ミゲール様の執務室に、3人の補佐官がリディアーヌ様の報告の為に集められる。


 政治経済を教える私ことケント、語学のクレメンテ、数学のメンデスの3人は、忖度なしの率直な意見を、主であるレイバック辺境伯夫妻に伝える。


「リディアーヌ様は、紛れもない天才で、才能の花が開いたかと思います。ファビオ様を凌ぐほどの優秀さには驚くだけです。ただ、ご本人にはその自覚が全くないようですが……」

「それで良い。今のリディなら大丈夫だと思うが、自分の才能に気づくと、あの頃に戻るかも知れない」


 ミゲール様がそう言うと、アルテイシア様も頷かれた。リディアーヌ様が我儘娘と言われた頃のことだろうと理解した。


「かしこまりました。稀代の天才としての才能が再び花開いたことを、決して悟られぬように注意致します」

「頼む。それから、賢人アルバロンを探してくれないか。彼ならリディの属性のことを解明できるかも知れないからね」

「かしこまりました」


 稀代の天才が故に傲慢となったリディアーヌ様、再びその才能が花開いたとなると『今度こそ道を外すことなく導く』そのことを我々補佐官は肝に銘じたのだった。


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