第8話 聖教国からの使者

 ファビオがレイバック家にやってきてから1年が経った。変わらず後継者教育は続いていて、忙しくても充実した日々を過ごしていたの。巻き戻り前は大嫌いで全くしなかった勉強も、ファビオと一緒に学ぶことで『楽しい』と思えるようになっていた。今の私なら、無能な我儘娘と言われることはないかも知れないわ。


 そんな忙しい毎日を過ごしていると、ブリリアント教レイバック大聖堂から使者が来て、教皇様から書状を届けに来た。


 確か、お母様の母国であるヴァレンティ聖教国から大叔父様がやって来て、私とファビオを鑑定するというイベントだったと思う。私は魔力こそ平均並みだったけど、魔術は水属性のみシングルのみで、さらに適性が1という超無能っぷりだったの。それに対してファビオは火・風・土のトリプルで適性値9という超天才だった。そのことを知った私は嫉妬に狂って、ファビオにキツく当たったことを記憶している。


(今回はたくさん褒めてあげないとね!)


 書状が届いた日の夕食時に、お母様がため息をついた後に、面倒臭そうに口を開いた。


「はぁ……、叔父様が訪ねてくるわ。私はああいうタイプは大嫌いなのよね……」


 久しぶりに会う叔父なのに、露骨に嫌がっていることを不思議に思いながら、話の行く末を見守ることにした。


「あぁ、訪ねてくるのはあの人か……」

「養子を迎えたことを知ったレイバック大聖堂の大司教が、きっと我が家の情報を流してるのね。これからは大聖堂に注意を払う必要があるわね」

「ブリリアント教の関係者が城に訪れた時は、不要な情報を与えないように箝口かんこう令を出しておくよ」

「養子を取って娘を後継者から排除するような者とは離縁して帰国をしなさい。そうすればリディを癒しの聖女として、聖教国へ迎えるようなことを書いてるわよ」


『バリンッ!』


 お母様が書状の内容を伝えると、お父様はナイフを握る手に力が入り過ぎて皿を割ってしまった。いつも温厚なお父様から怒りオーラが出てる、こんなに怒っている姿は初めて見た。


「ほぅ、私がリディを排除? ありえないことを言ってくれるね」

「ミゲール? リディが怖がっているじゃない」

「あっ、ごめん」

「叔父が来たところで、聖教国に戻る気なんてないから、適当に相手をしてあしらえば良いわね」


 巻き戻り前では知ることのできなかった情報を得て、大叔父様の来訪がかなり面倒なことだったと知った。あの時は私を鑑定してあまりにも酷い内容だったから、癒しの聖女候補として連れて戻ることを諦めたってこと? それなら特に気にする必要はないってことだね。


 自分のことを無能だと思っている私は、軽い気持ちで聖教国から使者としてやってくる大叔父様を待ったのだった。


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