閑話 ヴァレンティ聖教国
§教皇 フィリッポ視点§
ファーガソン王国にあるレイバック大聖堂の大司教から、一報が届いたので書状に目を通した。レイバック辺境伯家の後継者について動きがあったことを知る。
レイバック辺境伯が養子を迎え、後継者教育を施しているという内容だった。我が娘アルテイシアは、一人娘のリディアーヌを溺愛した結果、かなりの我儘娘に育ってしまったようで、それを見かねたレイバック辺境伯は、我儘な娘を後継者にすることを諦めたという内容だった。
これはアルテイシアを私の手元に呼び戻す、千載一遇のチャンスになると思った。
本来なら長女だったアルテイシアが聖教国の【癒しの聖女】となっていたはずなのに、溺愛体質が災いして妹のクリスティーナにその座を譲ってしまい、本人はファーガソン王国のレイバック辺境伯家へと嫁いだのだった。
アルテイシアのことだから、溺愛する愛娘が後継者から外れたことで、レイバック辺境伯に対して不満があるはずだ。そこで、愛娘リディアーヌを癒しの聖女の有力候補だと伝えれば、娘可愛さに辺境伯と離縁をして、聖教国へ戻ってくるはずだと思い至った。
アルテイシアを聖教国へ呼び戻す為に、最も信頼できる側近である者を、レイバック大聖堂へ派遣することにした。
「チェザーレを呼べ」
「かしこまりました」
私は弟チェザーレを呼び、レイバック辺境伯家の後継者事情を伝えて、リディアーヌが癒しの聖女候補だということ口実に、アルテイシアを呼び戻すように命令を下した。
「そういう訳だ。ファーガソン王国へ向かってくれるな? 大司教とアルテイシアにこの書状を渡して欲しい。これはお前にしか任せられないのだ。判るな?」
「はい、アルテイシアの娘を鑑定し、偽りでも癒しの聖女に相応しいと伝え、母娘を連れ戻れば良いのですね」
「そうだ。我が弟よ頼んだぞ」
「かしこまりした」
最も信頼できる弟チェザーレを使者として送り込み、愛するアルテイシアが再び私の手元に戻ることを切に願った。
§チェザーレ視点§
教皇である兄の命令により、ファーガソン王国へ嫁いだ姪の元へ行くことになった。
兄もそうだが、アルテイシアは私にとっても最愛の存在だ。妹への溺愛さえなければ、全てが完璧なアルテイシア。私は聖職者であるにも関わらず、何度も妄想の中で姪と交わってしまった。
人妻となり、さらに色香がましているは間違いない。そんなアルテイシアを前にした時、性の衝動を抑えられるのか自信はないが、逆に関係を持ってしまえば素直に連れ戻せるかも知らないと思った。
(欲望に任せるのも良いかも知れないな)
などと不埒な考えを抱きながら、ファーガソン王国へ向けて出発したのだった。
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