第2話 同じ過ち

 佐助は両腕から二人の仲間を振り払い、自転車で鍛えた瞬発力を見せた。フルボッコにされていた影闇を地面に押し倒し馬乗りになった。


「友里花さんを放す様に言え!そうしないとぶん殴るぞー。」


と、拳を高く上げ構えた。だが、彼の一言でまた形勢が逆転してしまった。


「おーい、その上げた拳を降ろしな。さもないと、この女の可愛いオメメに傷が付いてしまうけど良いのかい?大好きなゲームも出来なくなるかもよー。」


 友里花の目隠しを取ったもう一人の仲間が友里花の顔にナイフを当てながら言って来た。それを見た佐助はそれ以上何も出来なくなってしまった。

 押し倒され馬乗りにされていた影闇は佐助を蹴り飛ばし立ち上がった。佐助は後ろに尻もちを付いた。


「この野郎、俺様に手を上げやがったな。親にも手を上げられた事が無いのに。ふざけやがって、ぶっ殺してやる。」


 すると、ボロいソファーで横になっていたもう一人の仲間が何も言わず、佐助の前に何かを投げた。それは『サバイバル・ナイフ』だった。本物のサバイバル・ナイフなど見た事も無い佐助はビビッて立てなくなっている。

 そして、ナイフを投げて来た本人が言って来た。


「お前、俺の弟を倒して馬乗りになり、ぶん殴ろうとしていたよな。それは、許されねぇー事だ。うち等の法律で言うと死刑に値するな。だが、こちらから手を出すと殺人になっちまう。それは、ゴメンだ。」

「だから、そのナイフで自害しろ。証拠として動画を撮っといてやるから安心して死ね。」


 ソファーに横になっていた人物は、このチームを仕切る「影闇 陰次」の兄である「影闇 陰吾(カゲヤミ インゴ)」だ。

 流石に自害しろと言うのは冗談であるのだと思っていた。しかし・・・。


「早く自害しろ。早くしないとこのお姉さんの目が見えなくなっちまうぜ!」


と言いながら友里花の顔を切り付けた。

「イヤー・・・。ヤメテー!」


 こいつらは本物のクレイジーだった。どんな幼少時期を過ごすと、こうも捻くれた人格になってしまうのであろうか?

友里花の顔からは血が滴っている。


「俺等は本気だぜ。お前が自害しないのなら、このお姉さんの目が見えなくなり、外を歩けないお顔になっちまうかもな。ケケケケケ・・・。」


⦅オウマ、そろそろ出番かな?佐助ももう対処出来ないだろう。少し手伝ってやらないと、収拾がつかないぞこれ。⦆


〈そうですね。何かヤバそうな感じですよね。相手が悪過ぎましたね。これほどまでに悪行を働く高校生も珍しいですよ。では、足の方に移動してとりあえず彼を立たせましょう。〉


 グリイとオウマは佐助の足に移動して腰が抜けて立てない状態の援護をしようとしたその時、佐助は目の前にあるナイフを手に取り自分の首に突き刺したのだ。

佐助の首からは血が噴き出し、噴水の様になっている。


⦅何ー!佐助ぇー、何をしたー!お前何でそんな馬鹿な真似を・・・。バカヤロー・・・。⦆


〈佐助さん、いざとなったら私達が居ると言っていたじゃないですかぁー!何故この様な真似を・・・。〉


 佐助はこの状況に対応しきれないでいた。自分の体の中にグリイとオウマが居る事も、思い出せないくらいに・・・。

そして、佐助は狂乱高校の一人一人の心を先読みしていたのだ。それが、佐助を自害に導くトリガーとなっていたのだ。


 彼らは本気で鬼の心を持つ人間であるのだという事を分かってしまった・・・。


 グリイとオウマは佐助の足腰に移動をしていた為に、両腕のコントロールが出来なかった。両腕にいれば、阻止出来たであろうがタイミングが悪過ぎたのだ。

 そして、佐助はその場に倒れ出血多量で動かなくなった。


⦅オウマ、これは非常にマズイ事になったぞ。うち等が側にいながら、佐助に同じ過ちをさせちまった。動機はどうであれ同じ過ちという事には変わりない。⦆


〈この後は、私達もどの様な処分が下されるのか、検討が付きません。そして、佐助さんの魂はどうなるのでしょう?まだ、完全に色付いていないですから。〉

〈それにしても、あの狂乱高校の生徒は鬼ですね。悪魔でもあそこまではしませんよ。〉


 グリイとオウマは倒れている佐助の体の中で話し合っている。と、そこに・・・。

苦しそうにしている死神の声が聞こえて来た。


「天使よ悪魔よ貴様らは何をしていた。あれだけ同じ過ちをさせてはならぬと言っておったのに、あの男に同じ過ちをさせてしまったのかぁー。この役立たず共がー!ググググ・・・。」


⦅申し訳ございません。タイミングが・・・タイミングがあまりにも悪かったのです。⦆


〈人間の行動は読めないのです。そして、人間という生き物はあまりにも勝手であり残忍酷薄であります。〉


 死神は「同じ過ちをさせてはならぬ」という誓約を果たせなかった事により神の罰を受ける事になる。死神にとってそれは、絶対に回避すべき事であるのだ。また、死神は色付いた魂を触る事で自我の姿を保っていたのだ。それも途絶える事になると、かなり都合の悪い事が起きるのだと言う。それは、真の姿が露わになってしまうという事だ。


 真の姿はみすぼらしく恰好が悪いので、同業の神から馬鹿にされてしまうのだろう。

 違背を犯した死神がどの様な対応を取り、何をするのかをGOG(God Of God)神は監視をしていた。


 すると、色付いた魂に触れられない死神の姿は早くも崩壊を起こしながら崩れて行く。そして、崩壊した中から本来の姿が見え始めた。今までの姿は魂に触れる事で維持出来ていた偽りの姿であったのだ。 何と崩壊した体からは、みすぼらしい姿になった死神では無く・・・


「デーモン」が表れたのだ。


 この事に気付いた神は直ぐに刺客を送り、磔刑(カクケイ)の罪を受けさせるつもりでいたが、デーモンはその場から逃げ出したのだ。


 死神は魂を触るだけだが、デーモンは魂を喰らっていたのだ。死神もまた、デーモンに自身を奪われ操られていたのである。

 神もそこには気付けづにいた。デーモンとは何にでも姿を変え何処へでも潜む事が出来る、恐ろしい怪物である。


 逃げ出した場所は他でも無い人間社会のグリイとオウマの居る場所であった。




    ― デーモンの襲来 ―


バリバリバリバリバリ・・・・ズコーン————————。


激しい音と同時に狂乱の生徒が居る場所が激しく光った。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」


〖このクズ共が。やはり失敗しよったか。お陰で我がデーモンの心休まる場所が奪われてしまったでは無いか・・・。〗

〖これは許しがたい事であり、許されぬ所業だ。仕方が無い、ここにいる全員の肉体と魂を喰らい尽くしてやる。天使、悪魔諸共な。〗


「どうしちまったんだよ、陰次!何訳の分からん事を言ってるんだ?お前大丈夫か?」

「さっきの光と音で頭でもやられたか?顔色も悪いし少し休んだらどうだ?」


 仲間が陰次に話し掛けるが反応が変である。聞いているのか、聞いていないのか、視線も一点を見つめ、瞬きもしていない。

 そう、デーモンは影闇陰次の体を乗っ取り操作している。


 そして、仲間が陰次を移動させようとすると・・・。


「ウガァァァァァァァ・・・・!」


 陰次は獣の様に叫ぶとその姿が変化したのだ。それは、まさにデーモンそのモノであり人間の姿では無い。耳は尖り、口は耳まで裂け、腕や指は大きくなり爪は尖っている。服は裂け体には薄い体毛が覆う様に生えている。その体からは煙の様なモノが立ち込め、尻には尾まで生えていた。周りの仲間はその姿を見てビビリ尻込みしている。


すると、この場所に一人のやさぐれた感じの男が何も言わず入って来た。そして右腕を上に挙げ、手を開き呪文の様な言葉を発した。


「タナスト・キシプニステ。人間界ではこの言葉が妥当だな。」


 その呪文と共に、やさぐれた男の手の平から青白い光が出て絶命している佐助の体に光が入った。その瞬間、佐助の心臓が動き出し意識が戻ったのだ。そして目を覚ました佐助は、やさぐれ男を見て「て、店長!」と叫んだ。グリイとオウマは思わず二度見した。でも、何かが違う。何処かで見た事のある感じの気配を感じたのだ。グリイは目を細めて彼を見ていると「分かった。」と言った。


⦅アマテラ様ではないですか!えっ―――。本屋の店長が、アマテラ様だったのですか?⦆


〈本当に?アマテラ様が何故本屋の店長に?そして何ゆえこの様な場所に?今まで気付きませんでした。すみません。〉


《君達を手伝いに来ました。今、君達の前にいる化身は「デーモン」が取り付いた人間です。このデーモンを払って下さい。君達3体の頭脳と体でデーモンを払うのです。》


《天使、悪魔。君達に私の力を与えました。与えたというより、戻しました。君達が持っていた本来の能力を返したと言う方が正しいのでしょうね。そして、佐助さんは天使と悪魔に気持ちを合わせて下さい。》


《そうすれば、必ずデーモンを払えますので。頼みましたよー。必ず払ってから帰って来て下さいね。》


本屋の店長は小走りで職場に戻って行った。


 佐助は途中死んでいたので、内容が途切れていた。何故自害したのにまた生き返っているのだ?せっかく死んだのに二度も生き返ってしまった。俺って何て運が悪い男なのだろう。

と、考えていると・・・。


⦅佐助!お前の目の前にいる影闇陰次はもう人間では無い。デーモンが取り付いた魔物だ。⦆

⦅お前この状況を打破したいか?友里花ミレイを助けたいか?元の生活を取り戻したいか?⦆


「もちろんです!僕は彼女を助け、バイトをしながらゲームをする。この生活が大好きなのです。だって『ラブ活 彩 のドキドキ初体験3』の彩役は友里花さんだったのですから。」


⦅それは本当か?それなら尚更この状況を白紙にしないとマズイな。⦆


〈佐助さん言うのです!いや、叫ぶのです。この状況をどうしたら打破出来るのか。どうすれば彼女を救えるのか。あなたがいつも思っている、言いたいけど言えないで心に留めている言葉は何なのですか?それを、今私達に言って下さい。それが、私達の力を引き出す呪文となっているのです。〉


 オウマの言葉で、佐助の気持ちは開放された。オウマの言葉に導かれ全身全霊をもって佐助は叫んだ。


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