第3話 両片思いが両想いに
「今日は宿題が多いみたいだけど、ちゃんと終わらせるように。じゃあ、さようなら!」
「「「さようならー」」」
帰りのホームルームが終わり部活に行ったり下校する人が続々と教室を出る中、一は通学カバンを持って階段を駆け上がっていた。
「おい、速いって、ちょっと待って!」
達也の呼び止める声がしたので、少しスピードを落とす。
少しすると、達也が少々息を切らしながら追いついてきた。
「おま、ホームルーム終わったとたん走り出したから、焦ったぜ。はあっ、俺のこと待っててくれたらよかったのに」
「え、なんで?告白するのは俺なんだから達也は来る必要はないけど......」
俺が疑問を口にすると、達也は少し考えるそぶりをする。
「んー、ほら、屋上だから可能性は低いけど、お前が告白している最中に人が来るかもしれないじゃん?それに......」
「それに?」
「俺も今回結構協力してやったんだから、お前らがどうなるのか見届ける権利あるだろ?つーか、かなり見たい」
「お前、それが本音だろ」
「へへ、ばれた?」
達也は頭を掻きながら歯を見せて笑う。
まあ、今回達也が協力してくれなかったらいつもみたいに何もせずにバレンタインが終わっていただろうし、それくらいなら別にいいか。
そんなことを話している間に屋上に着いた。人は......いないな、よかった。
「そういえば、朱里っていつ、来るかな?」
「さあ、クラス一緒だから終わる時間も一緒だし、もうそろそろ来るかも。早くチョコをカバンから出して準備しとかなきゃ」
「お、おお、そうだな」
達也に言われて俺はチョコを取り出し、朱里を待つ。
「じゃあ、俺はドアのあたりで見守っておくわ」
「おう」
ついに、朱里に告白するんだ。
◇◇◇◇◇◇
「「「さようならー」」」
ホームルームが終わると、「ガタッ」という音が聞こえた。
少し驚いて音が聞こえたほうを見ると、一が通学カバンを持って教室を出ていくのが見えた。それに少し遅れて達也が一を追いかける。
「あ、綾ちゃん!一、もう行っちゃったけど、すぐ追いかけたほうがいいのかな?」
「大丈夫ですよ、そんなに慌てなくても。慌ててたらうまく告白できなくなるかもしれませんよ」
「そ、そうだね、慌ててもいいことないもんね」
そう言って一回大きく深呼吸する。うん、少し落ち着いた。
「じゃあ、行くよ、綾ちゃん」
「はい、頑張ってくださいね!」
そうして私は屋上に向かって歩き出した。すると、綾香が私の後をついてくる。
「あれ、綾ちゃんも屋上行くの?」
「はい!朱里さんの告白するところ見たいので!だめ、ですか?」
「いや、綾ちゃんにはいろいろと協力してもらったし、いいよ!」
「ありがとうございます!」
そうして、また二人で歩き出す。階段を上っていき、とうとう屋上に着いた。
「あれ、達也?なんでここにいるの?」
屋上に着くとドアのあたりに達也が立っていた。
「いや、俺も当事者だからね?一応綾香とスマホで連絡取り合って一をここに呼んだの俺だから」
「あー、そういえばそうだったね」
「ほら、こんなところで話してないで、はよ行きなよ。一、待ってるよ」
「っ!うん、そうだね。じゃあ、綾ちゃん、行ってくるから」
「頑張ってくださいね、朱里さん」
綾香の励ましの声を聞いて、自然と全身に力が入る。だが、不思議と緊張はしていない。
「うん!」
一の待っている屋上に行く。
ついに、一に告白するんだ。
◇◇◇◇◇◇
寒い冬空の下、一と朱里はお互いに向かい合う。二人ともチョコは手を後ろに持ってきて隠しており、どちらも相手がチョコを持っていることは知らない。
しばらくの沈黙......二人の息が白く染まる。
ついに意を決したのか、二人同時に話し出した。
「「あのっ!」」
「......あっ、先にどうぞ」
「いや、そっちこそ」
そして再び訪れる沈黙。
「......同時にする?」
「......うん、そうする」
そうして二人は後ろに持っていたチョコを出し、頭を下げ、長年の思いを今告げる。
「「俺と「私と」!付き合ってください!!」」
二人は互いの言葉に驚いたように顔を見合わせ、そのあと大きな声で笑った。
「「ははっ、ははははっ!」」
そうしてひとしきり笑った後、少し軽口を叩く。
「まさか、一も私のことが好きなんてね。びっくりしたよ」
「俺もだよ。これって両想いってやつだよな」
「今までは両片思いだったけどね」
「そうだな」
そうして、改めてお互いに向き合う。大事なことを言うために。
「「これからも、よろしく......」」
「おめでとうー!お二人さん!」
「ついに恋が成就されたんですね!おめでとうございます!」
そこには、達也と綾香が屋上に入ってきてこちらに手を振っていた。
「達也、いきなり入ってくんなよな!って、お前なんで式宮さんと手なんか繋いでんだ!」
「うわっ、本当だ!綾ちゃん、どういうこと?」
朱里が尋ねると、二人は少し恥ずかしそうに顔を赤らめながら説明する。
「あー、実は俺たち、前から付き合ってんだよ」
その言葉に綾香も小さく頷く。
「「え、ええー!」」
二人はまたも示し合わせたように声が重なった。
「えっ、いつからだよ!そんな素振り全然なかったじゃん!」
「そ、そうだよ!大体なんで私たちに隠して......」
「実はクリスマスイブに達也君から告白されまして、それからお付き合いをさせてもらってます」
「お前らに隠してたのは、お前らが付き合うまで秘密にしときたかったっつーか」
「なんだよ、それ。全然理由になってねぇし」
そうして、今度は四人で笑いあう。
「おっ、そういや、なんかいいとこを邪魔してしまったみたいだし、そのまま続けてくれや」
「私たちのことはお気になさらず、どうぞ続けてください」
「って言っても気になるもんは気になるっつーの」
「まあ、いいんじゃない?」
「それもそうだな」
そうして、二人は互いに向き合って笑いあって、さっき言おうとした言葉をもう一度伝える。
「「これからも、よろしくお願いします!」」
両片思いのバレンタイン 啄木鳥 @syou0917
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