第37話 お誘い
冒険者ギルドを出るとダースが駆け寄ってきた。
「ボス! やったな」
ダースにバッと飛びつかれる。
「わっ」
僕は後ろに転びそうになるのをおヘソにぐっと力を込めて耐えた。
危ない、危ない。
ちょっと前までだった押し倒されてたな。
どうやら僕にも、少しずつだけど筋肉がついてきているらしい。
「まあようやくEランクだけどね」
別に誇れるようなランクじゃない。
Fランク冒険者は見習いって感じで、Eランクでようやくスタートラインに立てたって感じだ。
まだまだ初心者。
けど、短期間でEランクに上がれたのは上出来だったと思う。
そのことは素直に喜んでいいのかもしれない。
ダースがなかなか離れようとしない。
なんかいつもと様子が違う。
「どうしたの?」
「ボスはもういなくならないでくれ……」
ぎゅっと力強く抱きつかれる。
ちょっと息苦しい。
でも、その気持ちは嬉しく思う。
「うん。いなくならない」
僕がそういうと、ダースがペシッと頭を叩いてきた。
いや、なんで?
「約束だかんな?」
「う、うん……」
なんでいま叩かれた?
まあいいけど。
ていうか最近よくダースに叩かれるけど、奴隷契約には反してないんだろうか?
ないんだろな……。
つまり、ダースに害意はないってことだ。
これはスキンシップということだろう。
でも僕は叩かれて喜ぶような性癖はないんだけどなぁ。
まあ、ダースが機嫌良さそうだし、いっか。
ダースと並んで歩いていると、
「やあ、エソラくん!」
夜明けの一座団長、勇者ドルフィンが僕に向かって手を上げていた。
他のクランメンバーもいる。
僕たちがゴブリンから助けた、例の少女もいた。
彼女も無事なようで良かった。
少女は勇者の陰に隠れながら僕をガン見してきた。
ちょっとそれどういう反応?
またなんかケチ言われるの?
まあいいけど。
「この前はありがとうございました。おかげで助かりました」
挨拶がてら、僕は頭を下げた。
「例を言うのは俺のほうだよ。こちらこそクランメンバー助けてもらったわけだしね。ありがとう」
逆に勇者に頭を下げさせてしまった。
いやいや、これはちょっと気まずい。
僕はそんな大層な人物じゃない。
勇者はぱっと頭を上げて自己紹介を始めた。
「改めてだけど、俺はドルフィン。夜明けの一座団長をやらせてもらっている」
知ってる。
夜明け一座団長であり、Sランク冒険者であり、勇者だ。
どれもすごい肩書だ。
まあ勇者は肩書なのか二つ名なのかはわからないけれど。
勇者といえば魔王を倒す存在。
といっても、もう魔王は封印されるし、この時代の勇者がどういう使命を持ってるのかは知らない。
「エソラくんは、以前一度うちに来たらしいね」
「はい」
あのときは追い出されたけどね。
今にしてみれば、僕のような初心者が大御所クランに入ろうなんて恥ずかしい話だと思う。
身の程知らずである。
黒歴史ってやつだ。
穴があったら入りたい。
「うちに入らないか?」
「え……はい?」
ちょっと何言ってるかわかんなくて聞き返してしまった。
「夜明けの一座のメンバーにならないか? 君にとっても悪い話じゃないと思う」
「いや、なんで……」
思わず本音が漏れた。
「君のような勇敢で有望な冒険者はどのクランだって欲しがるだろうよ」
「えっと……」
僕の隣でダースがむふんと鼻を鳴らした。
「君の勇気に惚れた」
え、まじですか……。
イケメンに惚れられるなんて初体験。
ちょっとうれしい。
「勇気……ですか?」
「そうだ。エソラくんにはぜひうちの団員になってほしい」
熱烈なアプローチだ。
僕が女の子なら、すぐに「うん」と頷いていたと思う。
もしもこれが一ヶ月前だったら、「はい。入ります」って言ってたと思う。
「非常にありがたい話です」
こんな僕を必要としくれるってだけで、本当に非常に涙が出るほどありがたい話だ。
それも目の前に誘ってくれてるのはSランク冒険者、勇者ドルフィンだ。
そんな大物から直々にスカウトされたら嬉しいに決まってるじゃないか。
誰だって彼のようになりたいと願うし、彼に憧れる。
ゴブリンキングを倒したときの、勇者の一閃はあまりにも鮮やかで鮮烈だった。
動きを目で追うことはできなかったけど、ちゃんと記憶に残っている。
ああいうふうになりたい。
強く、憧れる。
でも、
「すみません」
僕は首を横に振った。
それはできない。
夜明けの一座に入ることはできない。
「理由を聞いてもいいかな?」
「僕は……あなたに憧れてます」
そういうと、勇者がキョトンと目を丸くし、
「それは嬉しいね」
続いて優しい笑みを浮かべた。
太陽のような人だと思った。
こんな人についていきたい。
そう、心から思わされる。
かっこいい。
顔だけじゃない。
行動すべてがかっこいい。
これぞカリスマって感じだ。
「だからこそ、僕は夜明けの一座に入れません」
無謀にも僕はSランク冒険者のお誘いを断った。
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