第34話 Eランク冒険者
目を覚ましてからすぐ、ダースにポコンと頭を叩かれた。
「もうあんな危ない真似すんじゃねぇ」
って、心配された。
どうやら僕は3日も寝ていたらしい。
かなり危ない状態だったとか。
あとで聞いた話だけど、僕が寝ている間ダースが寝不足になりながらも看病してくれていたんだとか。
ダースの気持ちは素直に嬉しかった。
そして翌日、僕は冒険者ギルドに向かった。
ゴブリンキングのことで呼び出しがあったからだ。
ちなみにコハクとダースにもすでに呼び出しがあったらしく、ギルド側もおおよその事情は把握してるとか。
冒険者ギルドの建物内にある、大きめの会議室に通された。
大規模なクエストがあるときとかに作戦会議が行われる部屋だ。
まあギルド主導のクエストなんてそう多くはない。
基本はギルド側と冒険者側での話し合いに使われる。
部屋に入ると、冒険者ギルド支部の中で一番偉い人、つまり支部長がどーんと構えていた。
その隣にはギルドの職員らしく女性がいた。
ちょっと緊張する。
なんで支部長がいるんだろうか?
そんな重要な案件なのかな?
いや……重要な案件だろうね。
ゴブリンキングがあんなところに現れたんだ。
ギルドとしても調査が必要な案件なんだろうね。
支部長は筋肉モリモリのゴリラみたいな人だった。
見上げるほどの大きさだ。
もとAランク冒険者である、ゾーランド支部長。
今でも十分Aランクでも通用しそうな感じがする。
実際はどうかわからないけど、そのぐらいの迫力がある。
「おー! お前がゴブリンキングに立ち向かった小僧か!
なかなか骨のあるやつと聞いたが、なんだ! ヒョロヒョロじゃないか!」
ガーッハッハと支部長が豪快に笑う。
体だけじゃなく声もでかいようだ。
そんな大きな声じゃなくても聞こえるってのに。
「お初にお目にかかります。ゾーランド支部長」
「ん? 礼儀正しいな! 感心するぞ! 冒険者共は脳みそまで筋肉で礼儀知らずなやつばっかだからな!」
それはあなたも一緒でしょう。
そう思ったけど、もちろん言わないでおく。
「ありがとうございます」
バシバシと肩を叩かれた。
普通に痛いんだけど……。
骨が折れそうだ。
ちょっとは手加減してほしい。
いや、手加減してこれなのかもしれない。
馬鹿力め……。
「体はまだまだ貧弱だな! はっはっは! どうだ? 俺が鍛えてやろうか?」
「ははっ……」
この人に鍛えられるのはちょっと……いや、かなり嫌だな。
絶対スパルタだ。
そもそも僕は魔法使い。
分野が違うでしょ。
「支部長。冗談もそのへんにしておいてください」
ギルド職員の女性がジト目を支部長に向けた。
支部長ががーっはっはと豪快に笑いながら、
「冗談ではないのだがな!」
と言った。
ほんと、冗談にとどめておいてほしい。
そんな挨拶?を終えてから、勧められた席に座る。
そして本題にうつった。
僕は今回の出来事を一部始終話した。
といっても、僕の持ってる情報なんてたかが知れてる。
ゴブリンの群れを発見して、夜明けの一座の少女が捕まっていて、救出したと思ったらゴブリンキングが現れたってだけの話。
少年が死んだことも話した。
話してる途中でちょっとだけ気分が落ち込んだ。
少年の死を伝えても、ゾーランド支部長は少しだけ眉を寄せたくらいだった。
きっとこの世界で人が死ぬなんてありふれたことなんだろうね。
話を聞き終えた支部長は、
「冒険者の行動としては正しくない。自分の手に負えない問題が起きたら、すぐに離脱するのが鉄則だ」
と、普通に僕を叱ってきた。
まさか叱られるとは思ってなかったから驚いた。
でも、そうだよね。
死が近い職業だからこそ、慎重に行動するべきなんだろう。
耳が痛い話だけど、ちゃんと受け止めよう。
これで話は終了かと思ったが、最後に支部長が思い出したかのように言ってきた。
「おーっとそうだった! 大事なことをいい忘れていた!
小僧! 喜べ! お前はランクアップだ。今日からEランクだ」
「え?」
唐突だった。
ランクが上がるのはまだ先だと思っていた。
「良いんですか?」
「なんだ? 嫌なら取り消してもいいぞ?」
「いやいや! ぜんぜん! これっぽちも嫌じゃないです!」
僕は慌てて全力で否定する。
この機会を逃したら、ランクアップが半年後とかもありうる。
もらえるものはありがたくもらっておこう。
こうして僕はランクアップしたのだった。
Eランク冒険者。
一人で魔物討伐の依頼が受けられる。
まだ一人前というには早いけど、冒険者の入口には立てた気がした。
そのことが嬉しい反面、胸に刺さったトゲがチクチクと痛むような気がした。
一緒に冒険者試験を受けた少年は、もうこの世にはいない。
それを考えると、素直にこの結果を喜ぶことはできないと思った。
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