第25話 ゴブリンの群れ
最近、お金の余裕が出てきた。
まあ奴隷たちのおかげなんだけどね。
DランクやCランクなら十分な額を稼げる。
武具を買ったコスト差し引いても、それなりの稼ぎになる。
冒険者がハイリスク・ハイリターンと言われるのも納得の額だ。
そして奴隷たちが稼いだお金が僕に入ってくる。
ヤマルが奴隷たちを買い漁って冒険者として働かせようとしたのも、今なら理解できる。
これぞまさに不労所得!
もしここに利息も加わっていれば、僕は一生働かずに生きていけたかもしれない。
利息があれば債権奴隷から死ぬまで搾取できる……可能性がある。
まあでも僕はそんなことしない。
そんなことしなくても、奴隷たちが全員開放された頃には十分なお金になるはずだ。
全員とはいかなくても、半分開放された時点で僕はもう働かずに生きていける。
やはり僕って恵まれてるんだな。
お金で苦労しないってだけで、かなりのアドバンテージだ。
もし貧民や奴隷に転生していたら、って考えるだけでゾッとする。
僕は運が良い。
たまに頭をよぎることがある。
こんなに恵まれてるなら、別に頑張らなくてもいいのでは? と。
冒険者として頑張らなくてもいいのでは? と。
冒険者は命がけの仕事だし、そもそも、僕は冒険者に向いてないかもしれない。
奴隷に働かせて、僕は悠々自適に暮らしてもいいんじゃないかと、甘い誘惑に駆られそうになる。
でもやっぱりそれじゃあダメなんだ。
そんなんじゃ、生前の僕となんら変わりがない。
そんな生き方に意味はない。
何もせずに人生を終える恐怖を僕は知っている。
結局、僕は頑張るしかないんだ。
でも、だからといって今の僕ではやれることが少ない。
そもそも今の僕は、奴隷がいなければ一人で生きていくこともできない。
冒険者として独り立ちしなくちゃいけない。
そのためには、はやく冒険者ランクを上げるしかない。
冒険者はハイリスク・ハイリターンの職業と言われるけど、Fランクの僕ではほとんど収入がない。
お小遣い稼ぎってレベル。
少なくともDランクまで上がらないと冒険者として生きていけない。
逆にDランクまで上がれば、十分な稼ぎになる。
だからDランク冒険者から一人前と言われるようだ。
ちなみに、Dランクからは一つランクが上がるごとに稼げる額も一気に上がっていく。
Sランクにもなれば一般人が生涯で稼ぐ額を一瞬のうちに稼いでしまう。
そう思うとやっぱり夢のある仕事だ。
今日も僕は、少しでも早くランクを上げるためにEランク依頼を受けていた。
いつもの、コハクとダースのパーティーだ。
二人からしてみれば、僕とパーティーを組むメリットはほとんどないはずだ。
むしろデメリットしかない。
借金返済のために、少しでもはやくランク上げしたほうが良いだろう。
そんな中で僕と一緒にいてくれるなんて……ほんとにいい子たちだ。
まあダースは口が悪いけど……。
「じゃあ行きますか。ゴブリン討伐」
おう、とダースが拳を上げる。
コハクは無表情で、はい、御主人様、と頷く。
ふたりとも、いつも通りの反応だ。
今回のゴブリン討伐数は10体。
最近、ゴブリンの動きが活発になってるらしい。
そのおかげでゴブリンの討伐依頼が増えているから僕にとってはありがたい。
さすがにもうゴブリン狩りには慣れてきた。
一人でも問題なくゴブリンを倒せる。
最初はちょっとだけ怖かったけど、慣れればなんてことはない。
というか、いまEランク依頼のほとんどがゴブリン討伐だ。
嫌でも慣れるってもんだ。
でもゴブリンを舐めちゃいけないって聞くし、奴らは弱いけど残虐な魔物だ。
捕まったらとんでもないことになる。
特に女性は悲惨だ。
男は殺されるだけで済むけど、女は犯され産まされモノのように扱われた後に殺される。
なんだかんだいってゴブリン討伐は危険と隣り合わせなのだ。
それに慣れてきた頃が一番危ないって冒険者ギルドの人が言ってた。
あまり調子に乗りすぎないようにしようと思う。
それに僕はまだFランク。
ダースとコハクがいるからEランク依頼を受けられるだけであって、単独では依頼を受けることさえできない。
油断は禁物だね。
今一度気を引き締めていこう。
ルールその一、危険なことはしない。
ルールその二、深いところまで行かない。
ルールその三、危ないと思ったら即座に撤退する。
これらのルールを徹底しよう。
そうすればリスクを抑えることができる。
よし、ではいざ森へ。
レッツゴー。
ダースが戦闘、真ん中に僕、コハクが最後尾という隊列で森を歩く。
ちなみにこの隊列になったのも、僕が不甲斐ないせいだ。
以前、僕が調子にのって戦闘を歩いていたとき、突然現れた魔物に対処できずパニックになってしまったからだ。
あのときはほんとに情けなかった。
ダースから絶対零度くらいの冷たい目を向けられた。
コハクは無表情だったけど、きっと内心呆れ返っていたことだろう。
という経緯もあり、僕は二人に挟まるように真ん中を歩いていた。
「なんか今日は静かだね」
「はい」
コハクが頷く。
ここ一ヶ月で何度も訪れた森。
森の音というのは、案外よく聞こえてくるもんだ。
鳥の声や木々の揺れる音。
耳をすませばそういった音が聞こえてくる。
でも、今日の森は静かだった。
静かなのは森だけではない。
ダースも異様なほど静かだった。
じとり、と嫌な汗が頬を伝う。
「……ボス。嫌な予感がする」
ダースがいつもと違って険しい顔をしてる。
僕はダースの感を信じてる。
少なくとも僕の感よりは全然良いし、正確なはずだ。
「引き返す?」
「……ボスの判断に任せる」
それなら答えは決まってる。
今日のルールその三。
危ないと思ったら即座に撤退。
ダースが嫌な予感がするって言うなら、引き返す。
「うん。じゃあ――」
――引き返そう。
そう言おうとしときだ。
「――――ッ」
ゾクッとした。
何か嫌な感じがする。
ダースがとっさに剣を抜き、振り返る。
それにつられて僕も後ろを向く。
「……ちっ」
ダースが舌打ちをする。
ゴブリンがいた。
それだけならなんら脅威ではない。
だが、問題は、
「数が多い……」
ゴブリンの群れだ。
そこには20体を超えるゴブリンがいた。
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