第22話 ゴブリン

 ということで僕は冒険者ギルドにいってパーティー申請をした。


 パーティー申請はあっさりと通り、晴れてEランクパーティーが発足された。


 やったね。


 結成したパーティーの名前は”だらしない主人ボス”。


 パーティー名を決めたのはダースだ。


 ちょっとダースさん?


 それはあんまりじゃありません?


 まあ、そう言われても仕方ないとは思ってるけど。


 もうちょっとオブラートに包んでほしいなと思う今日このごろ。


 なんにせよ、これで僕もEランクの依頼を受けられる。


 ランク上げたかったから、上のランクの依頼を受けるべきなんだと思う。


 そっちのほうが成長はやいよ、きっと。


 ギルドの依頼所でEランクの依頼を物色する。


 魔物討伐の依頼がある。


 ワクワクするね。


「うん。これが良さそうだ」


 ゴブリン討伐。


 今回の対象は5体。


 ゴブリン討伐の証はゴブリンの耳だ。


 ファンタジー世界にありがちなやつだ。


 というか、ゴブリンの耳が討伐の証ってことだけど、ゴブリンを倒さずに耳だけ刈り取ってくることもできるんじゃ?


 そういう不正もできるような気がする。


 いや、むしろそっちのほうが面倒かもね。


 耳だけ切り取るくらいなら倒したほうが楽なんだろう。


 なんにせよゴブリン退治こそ冒険者って感じがする。


 ゴブリンは単体ではEランクの魔物だ。


 10を超える群れが対象ならDランクの依頼になるけど、今回の討伐依頼は単体もしく2~3体のゴブリン討伐。


 それも、浅い森にいるゴブリンだから大所帯になるリスクもない。


 ちなみに最近、ゴブリンが頻繁に現れるようになり、冒険者を襲っているらしい。


 幸い、今のところ大きな被害は報告されていないし、緊急案件ではないけど普段よりも報酬が少しだけ良いと聞いた。


「じゃあ、いこっか」


「はい、御主人様」


「ボスのはじめての魔物討伐だな」


「うん。ゴブリン倒してこそ冒険者でしょ」


 ダースとコハクを引き連れて森に向かう。


 やっぱり冒険者と言えば魔物倒してなんぼでしょ。


 不安もある。


 だって、前世では森どころか虫もほとんど殺したことないし。


 ゴキブリとかは倒してたけど。


 ちょっとドキドキもしてるけど、それ以上にワクワクが大きい。


 生前はこんなに好戦的な性格じゃなかった気がするんだけどな。


 異世界にきてちょっと考え方が変わったのかも。


 今回の依頼は森の浅いところで出てくるゴブリンを倒すこと。


 倒してその耳を持っていけば依頼クリアだ。


 討伐数は5体。


 Dランクのダースやコハクらからすれば簡単な依頼だ。


 森に入るとすぐに単体のゴブリンと遭遇した。


 想像以上にはやく出会えた。


 ゴブリンは小柄で身長はおおよそ100センチくらいだろう。


 緑色の生物……。


 図鑑では見たことあるけど、改めてみると醜い顔だよね。


 いや、まあ人間からすればって話なんだろうけどさ。


 シワシワの顔に鋭い眼光、そして全体的に汚れている。


 臭いも酷いものだ。


「ぐぎゃぎゃぎゃ」


 周囲にヨダレを撒き散らしながら、襲いかかってきた。


 思ったよりも速い!?


「ひっ……」


 思わず尻もちをついてしまった。


 そしてゴブリンが近づいてきて、


「――――」


 次の瞬間、ゴブリンの喉から血飛沫が上がっていた。


 ダースが僕の前に立っていた。


 ダースの短剣がゴブリンの喉を斬り裂いたのだろう。


 速すぎて何が起きたか全くわからなかった。


 さすがダース。


「ボス、ほんと情けないよな」


 ダースがゴブリンの耳を切り取りながら呟く。


 僕は、ごめん、といって謝る。


 これは情けないと言われても仕方ない。


 ゴブリン倒したいって言って無理やりパーティー組んでもらったのにこのざまだ。


 自分でもカッコつかないとは思ってる。


 しょんべんを漏らさなかっただけ偉いだろう。


 うん、やっぱり情けない。


 いや、でもさ。


 怖いものは怖い。


 想像以上にゴブリンって速いし。


 気持ち悪いし。


 あと、襲われるのって想像以上に怖い。


 ちょっと魔物舐めてました。


 まあでも次は大丈夫。


 僕はぱっぱっとお尻の土を払いながら立ち上がる。


 ゴブリンの死体が目に入る。


 こういってはあれだけど、きれいに喉が斬られている。


 見ててちょっと気持ち悪くなってきた。


 僕って冒険者向いてないのかも?


 いやいやそんなことないはずだ。


「ねえダース」


「なに?」


「ダースって剣術どっかで習ってた?」


「ん?」


 ダースが首を掲げた。


「いや、適当にふってる……だけ?」


 まじか……。


 これが天才ってやつか。


 才能の差を感じる。 


 やっぱり僕は剣士にはならないで良かった。


 魔法使いが向いているかはわからないけど、剣士は確実に才能なさそうだ。


「ボス。次は戦えるか?」


「あ……うん。頑張るよ」


 いや、ほんとに情けない。


 ゴブリンって魔物の中ではかなり弱い部類のはずだ。


 こんなに怖がってたらダメだよな。


 頑張ろう。


 引き続き森を探索する。


 森にはゴブリン以外の魔物も出てくる。


 でもここは浅い森だ。


 出てくる魔物も弱い奴らばっかだ。


 たとえばマタンゴ。


「ぎぐぐぐ」


 森などのジメジメとした場所にいる、きのこ型の魔物だ。


 討伐ランクはE。


 ゴブリンと違って戦闘能力はないが、状態異常を引き起こされるため注意が必要だ。


 近づくと菌を撒き散らしてくるから、地味に厄介な相手でもある。


 別にマタンゴを倒しても意味がない。


 依頼受けてるわけじゃないし。


 無駄な戦闘になるわけだけど、魔法の練習台としてはちょうどいい。


「ここは僕の出番だね」


 ゴブリンと違ってマタンゴの動きはノロい。


 近づかなければなんてことはない。


「燃え盛る炎の精霊よ、いまここに顕現せよ。サラマン」


 ボワッ。


 一般的には森で火を使うのは危険だと言われてる。


 森が燃え、火事になる。


 でも、この森ではめったに火事にならないらしい。


 なんか木が魔力で覆われてるとかなんとか?


 詳しいことはよくわからない。


 ファンタジー世界だから、そういうもんだと納得してる。


 なので気兼ねなく火を扱える。


 マタンゴに火がついた。


 そして、


「ぐぎぎぎぎぎっ」


 マタンゴが燃え上がる。


 きのこ焼きだ。


 にしても、改めてみると魔物って奇妙な見た目してるよね。


 きのこに手足が付いてるなんてまるでファンタジーだ。


 まあここ、ファンタジー世界なんだけど。


 異世界って感じがする。


「ふぅ」


 僕はむふーっと鼻息荒くしてコハクを見る。


「御主人様。さすがでございます」


「ありがとう、コハク」


 やっぱり褒められると嬉しい。


 ちなみにダースのほうは見ない。


 だってダースは褒めてくれないもん。


 僕は褒められる伸びるタイプなんだ。


 にしても、マタンゴ倒しても達成感ないな。


 やっぱりゴブリンを倒さないと冒険者って感じがしない。


 というわけで、森の中をうろちょろと歩く。


 深いところには行かないように気をつけながら進む。


 しばらくすると、


「ぐぎゃぎゃぎゃ」


 やつがおでましになった。


 ゴブリンだ。


 それも今度は三体もいる。


 よし、今度こそ僕がやるぞ!


 やってやる、やってやるぞ!


「ふぅ……はぁ……すぅ……はぁ……」


 呼吸が荒くなる。


 心臓がバクバクと脈打つ。


 ゴブリンを見据える。


 今ならやれそうだ。


 しびれを切らしたのか、ゴブリンが動き出した。


 が――しかし。


「――ッ」


 唐突に、ゴブリンの首が胴体から離れた。


 一閃。


 ことり。


 首が落ちる。


 あまりにもキレイに首が落ちた。


「え?」


 一瞬理解が追いつかなかった。


 だけど、すぐに状況を理解する。


 夜明けの一座の少女がいた。


 僕を馬鹿にしてきた女の子だ。


 ゴブリンの首を飛ばしたのは、その少女だった。

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