第17話 大手クラン
冒険者になって数日が経過した。
が、いまだに大した成果は出せていない。
はやく僕も冒険者としてちゃんと活動してみたい。
ちゃんとってのは、冒険者らしく魔物討伐とかしてみたいってことだ。
そもそもFランクでは討伐依頼を受けることができない。
薬草集めとか街の掃除とか、そういう依頼しかない。
ゴブリンとかスライムとか、雑魚モンスターの討伐であってもEランク以上じゃないと受けられないらしい。
じゃあどうやってEランクに上がるかって話だけど、方法は2つあるらしい。
1つ目が認定試験を再度受ける方法だ。
ここでEランクの実力があると判断されれば、Eランクに上がることができる。
ただし、一度認定試験を受けたら半年は受けられないらしい。
となると僕の場合、半年は認定試験を受けられないということだ。
2つ目が依頼をこなして実績を積み上げる方法だ。
依頼にはそれぞれポイントがある。
依頼に成功した場合、ポイントが加算され、失敗した場合、ポイントが減算される。
ポイントがある一定ラインを超えたらEランクに上がることができる。
大まかにいったらこんな感じだ。
細かいルールとか例外とかあるらしいけど、そこはちょっと覚えてない。
ちなみに例外として3つ目の方法も存在する。
それは支部長に認められるような功績を残したときだ。
依頼ポイントが溜まっていなくても、支部長の独断でEランクに上げてもらうことができる。
まあ、これは例外中の例外だ。
めったに起きないことだ。
僕がEランクに上がるには、2つ目の方法だろう。
ポイントをはやく上げたければ、難易度の高い依頼を受けるのが一番手っ取り早い。
しかし残念ながら、冒険者ランクと同じか一つ下のランクの依頼しか受注できないという規則がある。
例外として、パーティーを組んでいればパーティーランクの依頼を受けることができ、個人ランクよりも高いランクの依頼を受けられる。
他にも緊急依頼の場合は、ランク外の依頼を受けられる。
ただまあ緊急依頼はランクの低い冒険者に出されることはない。
ちなみに、僕以外の奴隷はEランク以上だ。
先日、ダースにも冒険者試験受けてもらったけど、彼女もDランクスタートだ。
さすがダースだね。
どうやらFランクは僕だけのようだ。
彼、彼女らに頼んでパーティーを組めば、Eランク依頼を受けることも可能だ。
けど、今はそういうことやりたくない。
駆け出しは駆け出しらしくやっていこう。
ということで、ちまちまと薬草集めとか猫探しの依頼をしていたのがここ数日の出来事。
なんだかんだ楽しかったし、薬草集めなんかは勉強にもなった。
最初の数回は、採取した薬草を間違えてたり、摘み方が下手だったりして依頼の報酬をもらえなかった。
薬草の知識とか採取方法とか学び、はじめて依頼を完了させたときはちょっと感動した。
でも僕は薬師になりたいわけじゃない。
冒険者になりたいんだ。
ちゃんと魔物討伐をしたい。
「これじゃあいつまでも低ランクのままだしね」
ランクを上げるには、難易度の高い依頼を受ける必要がある。
難易度の高い依頼には危険が伴う。
たとえば薬草集めといっても、難易度が高い依頼ともなると魔物が出没しやすいエリアの薬草集めとなる。
僕は奴隷たちと違って戦闘技術が皆無だ。
今の状態では、一人で魔物と戦える自信はない。
一応冒険者ギルドのサービスとして引退した冒険者から訓練を受けることもできる。
有料だし結構割高だけど、払えない額ではない。
奴隷たちが稼いでくれているおかげで、お金の心配はそんなにない。
コハクに教えてもらうのが一番安心するが彼女の時間を奪うのはもったいないから、こういうサービスを利用するのもありだと思ってる。
そういいながらも未だにコハクに頼りっぱなしなんだけどね。
コハク以外にも魔法を扱える奴隷はいる。
けど、なんとなく頼りづらい。
で、結局コハクに頼ることになる。
やっぱり僕はコミュニケーション能力が低いんだと思う。
うーん、ダメな主人だ。
そんなこんなで結局、僕は一人で魔法の練習をしてる。
少しずつ成長してるのは実感してる。
でも、そうじゃないんだよね。
欲張りな話だけど、一気に強くなりたい。
「ああ……神様、チートくれないかな」
なんで転生特典でチート与えてくれなかったんだろ?
僕だって俺TUEEEEしたかった。
ネット小説では、たいてい主人公が無双してたよ?
まあ僕がそういう作品を好き好んで見てたのもあるけど。
むしろ、主人公が弱い作品は読む気が起こらなかった。
だって僕は現実逃避したかっただけだし。
主人公が俺TUEEEEするのを見て、爽快感を味わいたかっただけだ。
けど、非常に残念ながら現実はそんな甘くはない。
一気に強くなることはないし、転生チートももらえない。
まあ、それを嘆いたところで仕方がない。
最速で強くなる方法を考えていたとき、僕は一つ良いことを思いついた。
「そうだ、クランに入ってしまおう」
クランというのは冒険者が集まってできる組織のことだ。
冒険者ギルドとは違う。
冒険者ギルドは冒険者を管理する組織であり、その中から有志のメンバーによって立ち上げられた組織がクランというものらしい。
ちなみにパーティーとクランも違う。
パーティーは少人数のグループ、通常2~6人程度。
10人を超えることは基本ない。
依頼完遂、魔物討伐などの目的によって集まる組織だ。
短期間なことが多く、目的達成後に解散することが多いけど、場合によっては長期間共に旅をする仲になる。
それに対して、クランは大人数のグループ、十~数百人規模の組織のことだ。
クランの目標は様々で、魔法の探求や剣の追求などが目的も場合もあれば、もっと大雑把にみんなで楽しくワイワイすることが目的の場合もある。
他にも難易度の高いダンジョンを攻略するために集うクランもあるらしい。
たとえば三大迷宮の一つ、東の帝国にある
まあ、要するにパーティーは少人数で特定の目標を達成するための仲間で、クランは大規模で共通の目的を持ったコミュニティってことだ。
クランに入るメリットはいくつかある。
情報の共有、クラン独自が保有してる依頼、武器や防具の支援、有名ギルドに所属しているというステータスなどなど。
だけど、一番はやはり技術を学べることだと思う。
現役で活躍している冒険者から直接指導を受けられるのは捨てがたいメリットだ。
冒険者ギルドでも似たようなサービスがあるものの、やっぱり質が違う。
生前、ネットとか本とかである程度学ぶことができたけど、この世界ではネットは普及してないし、紙が高級なせいで本を気軽に買うこともできない。
無料で技術を学べるなんて、まさに夢のような環境だ。
やはり有名どころが良い。
知名度のあるクランなら、育成の環境もしっかりしてるし、良い依頼を受けることができる。
有名クランに所属していることがステータスも欲しい。
つくづく僕は凡人だなと思う。
あれに似てるかも。
有名企業に入る、みたいな感じだろうか?
まあ僕は社会人になってないからそこんとこよくわからないけど。
生前、父がよく言っていた。
良い若手が入ってこない、と。
父の会社もそこそこの規模だったけど、いい人材は誰もが知るような有名企業に取られてしまうらしい。
まあ実際、父の会社以外に入るとしたら、有名な企業に応募してただろうし。
そんな機会なかったけど。
あれ?
これは、もしかしてはじめての就活じゃなかろうか?
ということで、僕はこの街のクランの下調べをした。
情報はすぐに集まった。
この街にある有名クランといえば4つ。
Sランククランであり、この街最強クランである『龍殺し』。
Aランククランであり、剣士クランである『剣狼』。
同じくAランククランであり、魔法使いのみで構成された『
最近Bランククランになり、いま一番勢いのある『夜明けの一座』。
この4つがこの街では有名だ。
Sランククランに入るのはさすがに無理。
僕もそこまで恐れ知らずじゃない。
というか、僕は臆病だ。
『剣狼』と『深淵の探求者』もダメだ。
そもそも僕は剣士ではないため『剣狼』には入れないし、入っても意味がない。
魔法使いクランである『深淵の探求者』は、魔法使いとして成長したいなら一番良い選択肢になる。
でも残念ながら『深淵の探求者』にはランク制限がある。
僕のようなFランクが入れる場所じゃない。
となると、残りは『夜明けの一座』だ。
このクランには制限がないらしく、クランリーダーに気に入ってもらえば入ることができるらしい。
逆にリーダーが気に入らなければ、ランクが上でも入れない。
僕は人に好かれるような
可能性は低いけど、ゼロではない。
ということで、さっそく僕は『夜明けの一座』のクランハウスに行ってみた。
「ここがクランハウスか。でっかい建物だな」
ダースがクランハウスをほへーっとした顔で見ている。
本当は僕一人で来るつもりだったけど、ダースもついてきたいと言ってきた。
まあ一人で行くのはちょっと気後れしてたから嬉しい。
クランハウスは木造の自然なデザインだ。
クランハウスといったらもっと荘厳な感じをイメージしてたけど、ここは誰でもウェルカム?みたいな感じだ。
広めのアーケードがあり、門に続く石畳の上を恐る恐る歩く。
有名クランってこともあって、ちょっと緊張する。
開放感のある庭で剣と剣がぶつかり合う音がして、かと思いきやその近くでは獣人族の綺麗なお姉さんたちがわいわいとお茶してる。
「なんか自由って感じだね」
なんとなくアメリカ?みたいなイメージだ。
開放?
自由の女神?
多国籍?
まあよくわかんないけど。
「ふーん。ここに獣人いるんだな。なんか意外」
「ん?」
と首をかしげた直後、僕はすぐに思い当たる。
そうだ。
「……亜人戦争」
「それはあるが……。ここって勇者のクランだろ? 別にあたしは恨みがあるわけじゃないが、他のやつらにとっては別だろ」
「え、どういうこと?」
ダースが僕のほうをまじまじと見てくる。
「ボスって抜けてるとこあるつーか……なんも知らねーんだな」
失敬だな。
「僕が何も知らないわけじゃないよ。エソラが何も知らなかっただけだよ」
「なにいってんのか、わかんねぇ」
ダースがジト目で見てきた。
なんかちょっと心外だった。
そうこう話してるうちに、アーチ型の門の前にたどり着いた。
「ふぅ……」
一呼吸置いてから、クランハウスの門を開けた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます