第14話 泣いてる女の子
ふぁあ……。
今日も疲れた。
僕は寝床に向かった。
ダースと約束してから、僕はダースの隣で寝るようにしている。
といっても、檻の中に入る勇気はない。
鉄格子を隔てて、檻の外で寝る。
日本人の感覚として、ふかふかのベッドで寝たい。
でも、鎖に繋がれた少女の隣をベッドで寝るなんて、さすがに鬼畜すぎる。
ということで、藁を床にしいて寝る。
非常に寝にくい。
藁は硬く、ずっと寝ていると体が痛くなってくる。
それに加え、たぶんだけどダニもいる。
すぐ体が痒くなる。
日本が如何に良い環境だったのか思い知らされる。
「おい」
地下室に来ると、ダースが話しかけてきた。
珍しい。
仲が深まった証拠かな?
ここで寝るようになってから、ダースには話しかけるようにしてる。
鉄格子があれば怖くない。
相手はただの少女だしね。
といっても、僕のコミュニケーション能力はそんなに高くない。
というか、低い。
まともに会話できていた自信はない。
だから、こうして話しかけれたのにちょっとびっくりした。
「なに?」
「いったいお前は何がしたいんだ?」
え?
いきなりどういうことだろう?
「冒険者……かな? とりあえず今日、冒険者になってきたんだ」
僕はついさっき手に入れたギルドカードを触る。
Fランクは
「……」
ダースが無言で睨んでくる。
聞いてきたのそっちでしょ?
なんか反応してよ。
僕はコミュニケーション能力が低いんだ。
そういう反応されると困るんだよ!
仕方がないから僕は続ける。
「なんか昔読んでた小説だと、いきなりAランクとかSランクとかから始まるんだけどね。
現実はそんな簡単にはいかないか」
僕は主人公が無双する話が好きだ。
爽快感がある。
現実で窮屈な思いをしてたからこそ、余計そういうのに憧れる。
異世界転生してチート級の力を手に入れて無双しまくる。
そういうのに憧れる。
でも実際はFランクスタートだ。
冒険者になれたのは嬉しい。
でもやっぱりショックだった。
コハクは才能あるって言ってくれたけど、あくまでも普通の人よりちょっと才能がある程度だ。
英雄的な伝説的な人間になれるほどの才能はない。
知ってはいたし、僕は英雄って柄じゃないし、別にひどく落ち込んでるわけじゃない。
でも、ショックだった。
「僕は変わってないんだろうね」
異世界にきてチートを得る。
そんな夢を見ていた。
現実はこうだ。
少女ひとりと仲良くするにも苦労してる。
人生をやり直せる機会を与えられたからと言って、それを活かせる人間は果たしてどのくらいいるんだろう?
生まれ変わっても、もとが同じ人間なんだから考えが変わるわけじゃない。
「呑気なもんだな」
「え?」
ダースが鼻で笑ってきた。
「お前は今まで親に甘やかされて育ってきたんだろ? 遊び感覚で冒険者とか、笑える」
キツイ言い方だ。
でも、ダースの言う通りだ。
「うん……そうだよね」
ほんと、情けない。
「なんでわざわざそんなことする? 奴隷をこき使って生きていけばいいはずだ」
「まあ……そのとおりなんだけど」
幸運にも、僕には奴隷を従える立場にいる。
冒険者になる必要なんてない。
それでも、僕は冒険者になろうと思った。
自分のやりたいことをやってみたい。
「冒険者なんてクソ喰らえだ……。憧れるやつの気持ちがわからねー」
ん?
気のせいだろうか?
ダースの声が震えてるように聞こえた。
「……」
あれ?
いや……あれ?
「泣いてる?」
え?
え?
ダースが泣いてる……。
どういうこと?
意味がわからない。
対人スキル低い僕には理解不能だ。
なにか泣かせることいったのか?
言ってないよね?
わかんないんだけど。
パニックになる。
いや、でも……。
何に泣いてるかわからない。
こういうとき、どうしたら良いんだろう?
わからない。
かっこよく、彼女の涙を拭いて上げられる男になりたい。
でも、僕は臆病で弱虫だ。
こんなときでも、僕は彼女に近づくことができない。
生前、僕は子犬を助けられなかった。
見て見ぬふりをした。
あのとき、僕は見捨ててしまった
また同じことを繰り返すのか?
「――――」
ダースと目があった。
ああ、そうだ。
思い出した。
あの目の正体。
ダースが僕に向けてきたあの目。
捨てられた子犬が僕に向けてきたあの目。
同じ目だ。
あの目の正体がわかった気がする。
すがりつくようなあの目の正体。
――助けて。
そう目で訴えてきていたんだ。
生前、僕はそのSOSを無視した。
だからずっと心残りだったんだ。
ほんとはずっと気づいていた。
気づいていたけど、無視していた。
何もできない自分を直視するのが怖かった。
でも、そういうのはもうやめよう。
僕は檻の鍵を探しに行き、ついでに服も取ってきた。
比較的新しい服だ。
ハンカチ代わりにはなるだろう。
泣いてる女の子にハンカチを渡す。
それだけだ。
何も怖くない。
――カチャッ
僕は意を決して檻の鍵を開けた。
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