第13話 試験
僕は受付を見つけ、そこに向かった。
受付には20歳くらいのお姉さんがいた。
「あの……冒険者になりたいのですが」
お姉さんがちらっと僕を見る。
「ええ。かしこまりました」
事務的な返答がきた。
冒険者ギルドの受付は、やはりというべきか美人だった。
冒険者ギルドの受付は美人じゃないとダメ、という法則でもあるのだろうか?
少なくとも僕の読んでいたWEB小説では、冒険者ギルドの受付はみんな美人だった。
まあそもそも冒険者は男のほうが多いしね。
依頼をこなしたあとにむさ苦しい男に出迎えられるより、美人のお姉さんが出迎えてくれるほうがよっぽど良い。
でも、この受付のお姉さん、事務的すぎるんだよね。
もうちょっと笑顔でも良いんじゃないか?
愛想って大事だよ?
お姉さんに促されて一通り書類に記入する。
ちなみに文字が書けない場合や読めない場合は、受付の人が代行してくれるらしい。
その分、お金も取られるけどね。
まあ、そもそも試験受けるだけでお金を取られる。
試験料ってやつだ。
加えて、試験が受けったらまたお金を取られる。
冒険者の登録料ってやつだ。
といっても、これは大した金額じゃない。
お金に困ってたら建て替えてくれるらしい。
依頼こなしたら、そこから引かれる仕組みなんだって。
書類を出したあと、試験会場まで案内される。
途中で同じ受験者らしく少年が話しかけられた。
「お前、魔法使い志望か?」
「え……まあ、うん」
「だよなー! 見るからにひ弱だもんな!」
ひ弱で悪かったね。
これは僕が悪いんじゃない。
エソラが悪いんだ。
まあ生前の僕もひ弱だったから、他人のこと言えないんだけどね。
「そういう君は剣士っぽいね」
「ったりメーよ! 冒険者っつったら剣士だろ? 俺はこの腕一本でのし上がってやる!
Sランクになって一攫千金当ててやるんだぜ!」
少年がぐっと腕に力を込め、筋肉を見せてきた。
たしかに、少年の体はよく鍛えられている。
エソラのように、だらけた生活をしてきた人とは違う。
「まっ、お互い頑張ろうなっ!」
バシッと背中を叩かれた。
ちょっと……いや結構痛かった。
冒険者ギルドの建物の中には訓練所が設けられている。
そこが今回の試験場らしい。
僕たちは訓練所に案内された。
「ああ。だりぃ。なんで俺がガキの相手なんてしねーといけねぇんだ」
ボサボサの髪に無精ひげ。
年齢は30代後半か、40代前半か。
言葉から察するに、きっとこの人が試験官だ。
「ガキじゃねぇ! 俺は未来のSランクだぞ!」
少年が試験官に食って掛かる。
「わかった、わかった。じゃあ模擬戦でもやっか。そら、実力みせてみろ」
「ふんっ。ギルドのおっさんなんて敵じゃねぇよ!」
少年とおっさんが模擬戦を始めた。
もちろん、木刀だ。
どんどんどん、と鈍い衝撃音と地面を踏みしめる軽快な音が響く。
うん……。
ふたりともすごい。
いや、ほんとそれ以外の感想が出てこない。
僕の語彙力では二人の動きを言い表せない。
木刀だけど、あんなのが当たったら骨が折れるどころじゃない。
下手すれば死んでしまう。
やっぱり僕には剣士は無理だと思った。
あんなに素早く動くことなんてできない。
それにきっと才能もないと思う。
模擬戦が終わると、少年の合否が言い渡された。
合格、Eランクスタートらしい。
少年は少し不満そうにしてた。
なるほど……。
僕からしたらだいぶ戦えてるように見えたんだけど。
それでもEランクか……。
次は僕の番だ。
「オメェは魔法使い志望だったな?」
「は、はい」
ちょっと緊張する。
試験ってのはどんなものであれ緊張するものだ。
中学の受験は緊張しすぎて吐きそうになった。
まあ、あのときは親からのプレッシャーがすごかったからね。
でもその記憶も相まってか、試験って聞くだけで緊張してくる。
「使える魔法は?」
「火を少々」
「火系統か。具体的には?」
「えっと……火を飛ばして的当てができます?」
この説明でいいのかな?
「じゃあ、試しにあそこの的に撃ってみろ」
おっさんは訓練場にある的を指さした。
「わかりました」
ここ最近、何度も練習した魔法だ。
的あての練習もたくさんした。
まあ、きっと大丈夫だろう。
ゆっくりと息を吸い、
「燃え盛る炎の精霊よ、いまここに顕現せよ。サラマン」
詠唱を唱えた。
手のひらの上に、ボワッと火が出現する。
ここからはイメージだ。
的に向かって火が飛んでいくイメージ。
コハクが僕には才能があると言ってくれた。
手から放たれた火魔法が的に当たる――この動きを僕は細かにイメージすることができた。
僕にとって簡単にイメージできることだけど、これがイメージできない人も多いらしい。
きっとこれが才能というものだろう。
僕の才能か、エソラの才能か。
どちらかはわからない。
どちらにせよ、
「――――」
狙い通り、火が的に命中した。
「魔法制御はなかなかのもんだ」
「あ、ありがとうございます」
「今の魔法だと何発ぐらい使える?」
「えーと……10発ですかね?」
日に日に放てる回数が増えてる。
昨日は10発いけた。
もうちょっと使えた気もする。
「10発か……」
試験官のおっさんが眉をひそめる。
うーん……少ないのかな?
少ないんだろうな。
でも謎に魔法使える回数が増えてるんだよね。
ちょっと練習すれば20発、30発もいけると思う。
もう少しあとに試験受けたほうが良かったかな?
だけど、なるべくはやく冒険者なりたかったし。
仕方ないね。
「他の魔法は?」
「いえ……まだ一週間なので」
「一週間……?」
「魔法習い始めたのがちょうど一週間前なんです」
「……オメェ」
なんだ?
おっさんがジロジロ見てきた。
なんだろうか?
一週間で来るようなところじゃねーってことかな?
それは僕も思う。
コハクが大丈夫って言ったからら来たけど、全然大丈夫じゃなかった。
いや、別にコハクを攻めてるわけじゃないけどね。
ちょっと急ぎすぎたな。
これはまさか、認定落ち?
「それで……結果はどうでしょうか?」
「あ……ああ、うん。合格。Fランクな」
ほっ。
よかった。
晴れて僕は冒険者になった。
でもFランクかぁ……。
喜んでいいのか悪いのか……。
いや、喜んでいいんだろう。
ランクはこれから上げていけばいい。
そうだ、僕は冒険者になったんだ。
生前、WEBで見た。
ゲームも漫画も取り上げられた僕は、無料のWEB小説にはまった。
最悪、親に見られても「小説を読んでます」と言い訳ができた。
漫画は絶対にNGだったから。
授業参観で変なこと言ったのが悪かった。
代わりのWEB小説だったけど、想像した以上に面白かった。
異世界転生というのは夢がある。
嫌な現実を忘れられた。
そこで出てきた冒険者という存在に憧れた。
誰になんと言われようと、僕の憧れだ。
空想上の職業に、人たちに憧れるなんてほんと呆れるほど僕は馬鹿だ。
それぐらい僕は、現実から逃げ出したかった。
ひとつ、夢が叶った。
◇ ◇ ◇
――試験官視点――
とんでもねぇやつが来た。
魔法が使えるようになるには、通常、はやくても一ヶ月はかかる。
遅いやつだと一年以上かかる。
一生使えないものもいる。
というより、大半の者が魔法を使えない。
習ってないからというのが一番の理由だが、習ったところで使えない者がいる。
それがなんだ?
習い始めて一週間も経ってないだと?
そんなやつ初めて聞いた。
こいつは、バケモンだ。
習得速度と習熟速度があまりにもはやすぎる。
サラマンというのは火を出現させるだけの詠唱だ。
火を飛ばす魔法じゃねぇ。
簡単に火を飛ばそうと思えば、火を飛ばす詠唱を使えば良い。
そちらのほうがはるかに簡単で効率的だ。
俺も火魔法を少しは扱えるが、だからこそ少年の異常さがわかる。
いまだに俺は”サラマン”で火を飛ばすことはできねぇ。
別に俺は魔法使いじゃねぇから、魔法制御なんていらねぇしな。
なんにせよ、魔法を習って一週間でここまで習得・習熟させたやつを、俺は今まで聞いたことがない。
この街にいる、Sランク冒険者
「ははっ」
笑いがこみ上げる。
世の中にはバケモンがわんさかといる。
改めてそれを思い知らされた。
俺が冒険者をやめて教官になった理由、それは自分よりも才能があるやつらがいたからだ。
俺の努力なんて鼻で笑い飛ばして、先にいっちまう奴らだ。
俺がどれだけ頑張ったところでSランクなんて無理。
いや、Aランクも無理だろう。
才能ってのは残酷だ。
俺が死ぬ気で冒険者やっても、せいぜいBランク止まり。
文字通り、死ぬ気だ。
その過程で死ぬ可能性すら十分ある。
笑っちまうぜ。
俺の死ぬ気の死ぬほどの努力を一瞬で超えていく連中がいるというんだからな。
才能がある奴らを、俺はたくさん見てきた。
だが、その中でもこいつは別格かもしれん。
才能の原石だ。
だが、それだけに残念でならない。
あの年齢ではもう、魔力量が増大することはないだろう。
もしもあの少年に十分な魔力量があれば、Sランク冒険者にだってなれたかもしれない。
歴史に名を残すような偉大な魔法使いになれる可能性すらあった。
「だがまあ、俺が気にすることでもねぇか」
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